CASE3:「年上部下」を気持ちよく動かす
年上部下●59歳。社歴40年のベテランで、数々の工場で働いた経験のある生産管理のエキスパート。最近仕事の効率が下がり気味。

上司「管理職として言わせていただくのですが、Yさんにはもう少し若手の育成に関わっていただきたいと思っています。」

若手「でも、今の若手はなにも聞いてこないし、自分で勉強する気がない子も多い。昔は自分で勉強したもんなんですけどね。」

上司「そうでしょうか。若手たちはYさんの持つ知識、経験から学びたいと思っていると思いますよ。B工場のZさんが勉強会を開いたところ、若手がたくさん集まったそうですよ。」

若手「そうなんですか?」

上司「Yさんの40年の知識と経験は会社にとって貴重な財産です。会社の未来のためにも、若手向けの勉強会を開いてもらえませんか。」

▼解決ポイントは「ベテランならではの役割を与える」

「年上の部下」は、トヨタ社内でも増加傾向にあり、このことが、マネジメントを難しくしている要因の一つとなっているという。研修では、年長者に対する敬意を持って接することを大前提としながらも、管理職という立場として、伝えるべきことはきちんと伝えるべき、という意見が参加者から出た。

知識や経験が豊富な先輩として扱い、自尊心を傷つけないよう、「会社のためにやってほしい」などと組織全体に関わる役割であることを示しながら、要望を伝えるようにするのがポイント。

東大 中原先生が教える部下を動かすフィードバック法

フィードバックについての研究から導き出されるポイントは次の3点です。(1)行動を具体的に指摘する――情報を提示する際は、「どんな状況で、どんな行動が、なぜだめだったのか」を具体的に伝える。(2)鏡のように見えたまま伝える――情報を提示したうえで、評価などを伝える場合は、「私の目には仕事量が多すぎて、手に負えなくなっているように見えます」などと、見えたままを淡々と鏡のように伝える。(3)立て直しのお手伝いをする――情報を提示し、評価を伝えたら、相手に理想はどうありたいのかを語ってもらう。そのうえで、「めざすゴール」と「現在の状況」とのギャップを意識させ、解決策をともに考え、言葉にさせます。自己決定させることが大切です。

部下面談は多くの場合、密室という高ストレスの閉鎖環境で行われるため、緊張しますし、とかく感情に流されてしまいがちです。必ず事前準備を行ってから面談に臨みましょう。トヨタの研修でもロールプレー演習の前に、しっかりと準備の時間を取っていました。

私がおすすめするのは図のような「面談作戦シート」の作成です。

準備段階で重要なのは正確な情報をいかに蓄積できているか。そのためには普段から相手のことをよく観察する必要があります。良いことも悪いことも含めて、いつ、どこで、何をしたことで、どのような結果をもたらしたか。面談作戦シートに、なるべく具体的に書き込んでおきましょう。このことが面談の成否を分けます。

メモ程度でも構いませんので、部下との面談の前にこのような作戦シートを作成し、シミュレーションを行っておけば、落ち着いて伝えるべきことを伝えられます。前向きな形で面談を終えられる流れもつくりやすくなります。そうすれば、面談の場を、効果的な「部下育成の場」にすることができるでしょう。

 
中原 淳
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授。東京大学卒業後、大阪大学大学院人間科学研究科、米MIT客員研究員などを経て、2006年より現職。『企業内人材育成入門』など著書多数。
 
(的野弘路=撮影 解説:東京大学 中原淳准教授)
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