「核開発をやめないといつでも撃ち込む」
そもそも、こうも米国が神経を尖らせる理由は何か。海上自衛隊ナンバー2にあたる自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は、昨年9月に北朝鮮が行った新型ロケットエンジンの燃焼実験がきっかけだったとする。
「米国の専門家の分析で、新型ロケットの射程が1万キロを超え、大陸間弾道ミサイル(ICBM)にあたるとされたのです。そうなれば、米本土が直接北朝鮮の核の脅威にさらされるということ。これまでのように日韓が射程に入るだけならまだしも、米国の安全保障にとって根本的な脅威となる。米軍は実験の翌月にはネバダ州で核を搭載可能な地中貫通型爆弾B61の投下実験を行ってわざわざ写真を公表し、さらにトマホークを搭載した原子力潜水艦のグアム寄港も公表しました。いずれも北朝鮮へのシグナルと見るべきです。『核やICBMの開発をやめないと撃ち込むぞ』ということです」
だが、金正恩・朝鮮労働党委員長は、国民向け新年の挨拶で、「ICBMの開発は最終段階に達した」と誇示して開発を継続する意志を示し、さらに今年3月には在日米軍への攻撃を担当する火星砲兵部隊による4発の弾道ミサイルの発射訓練を実施してみせた。朝鮮中央テレビの映像には、これ見よがしに司令室の地図に米軍の三沢基地や岩国基地の位置が掲げられていた。
米国の圧力を無視するかのような北朝鮮にどうやって核やミサイルの開発を断念させるか。大統領向けに毎日行われるPDBと呼ばれるインテリジェンス・ブリーフィングでは、トランプ氏は活字資料を詳しく読もうともせず、米メディアの取材には、「俺は直感の男」「俺のカンはよく当たる」と言って憚らない。「まるでビジネスをやっているような感覚で国際情勢に対処する」(春名氏)というトランプ氏が、北朝鮮を説得する役目を押しつけたのは、中国だ。4月の米中首脳会談で為替操作国への認定を見送ることと引き換えに習近平国家主席に強く迫った。
「オバマ政権の8年間で中国は米国をなめていたふしがあり、半ば公然と北朝鮮と貿易や金融取引することで、経済制裁の抜け穴となっていた。ところが、米中首脳会談の5日後に習近平がトランプに電話したり、ロシアにも北朝鮮の説得に協力するよう求めたりする様子を見ると、中国がトランプ政権の本気度に気づいて慌てている様子がよくわかる」(外務省関係者)
朝鮮半島問題特別代表の武大偉氏を平壌に派遣しようとして断られるや中国国際航空の北京―平壌路線を閉鎖するなど、中国も必死で北朝鮮に圧力をかけるが、これに応じる様子はない。