責任は重いが自分で決められるのが社長
【石川】川野さん個人の仕事に対する取り組み方として、モチベーションを保つ秘訣や、ストレスを溜めないような仕事のやり方など、習慣化していることはありますか。
【川野】やはり人間ですから、非常にやる気がある時と、少しテンションが低い時はあります。社長になってからは、決断しなければならないことも多いし、最終的な責任も負わなければならず、ストレスはあるものの、「最後は思うように自分で決められるのだから、いいことなのではないか」と考えるようになりました。自分で決められず、やらされるというのが、一番のストレスだと思いますよ。
【石川】責任は重いが、それを上回る裁量があると。
【川野】先日、コロンビア大学の教授が著した『選択の科学』という本を読んでいたところ、「社長はストレスが多いから寿命が短いのではないかと調べてみたところ、むしろ社長は寿命が長い」と書いてありました。それは、自分で選択できるからなのではないかというのが著者の主張でしたが、私も共感します。
【石川】川野さんは週1~2回のトレーニングをしているそうですが、トレーニングの時間をお忙しい中でどうやって捻出しているのでしょうか。
【川野】あらかじめ決めておく、ということでしょうね。月曜日は必ずジムに行くと決めて、習慣にしています。生活のリズムはいつも保つようにしていますし、たとえば睡眠であれば、12時前には寝て約7時間は寝るというのは崩しません。
大事な判断を誤らないために、7時間睡眠
【石川】今のお話は、まさに習慣付けが上手い人の特徴ですね。自分の生活において仕事の優先順位を一番にしてしまうと、仕事は決して終わらないので他のことができなくなってしまいがちです。川野さんは何時に寝て何時に起きるか、ジムに必ず行くのは月曜日、可能ならもう1日ときっちり決めておいて、残りの時間の中で仕事をしています。そうすると、限られた時間に仕事を終わらせるために効率的にならざるを得ない。生活の中でまず睡眠があり、ジムもあるから、そこまでに終わらせないという発想であれば、自分の中でも無理してやっている感じがなく、習慣化しやすい。
【川野】「ワークライフバランス」という言葉がありますが、個人的にはそこまで境目をはっきり分けていません。なぜならば、ライフというものは必ず仕事に役立ってくるものだと思っているからです。日頃、社員にも言っていますが、我々の商売は普段の日常生活で使うもの、毎日食べるものを扱っているので、自分たちの食生活が楽しくならなければお客さんに楽しい提案は絶対できない。だから、仕事を充実させるためにもライフを充実させる。我々はいろんな商品を扱っていますし、たとえばこれがよく売れた、こんな新商品が出た、というのを、家に帰って家族に話すのもライフを充実させる一つだと思っています。
それに、これは社長業に特に求められる要素だと思いますが、急なことがあった時にも、きちんと自分で判断し、対応できる状態にしておかなければならない。出店や投資判断などのリスクマネジメントは睡眠不足ではできないですから。睡眠も仕事の一部だと考えています。
【石川】川野さんは姿勢がよく、ゆっくり話すのが印象的です。姿勢がよければ呼吸がしっかりできるので、自分をコントロールしやすい。そして、ゆっくり話すことで感情をコントロールしやすくなる。だから、もしイラッとした時にも、それを抑え込むことができるのかなと、医学研究者として思いました。
【川野】いや、実際には瞬間的に怒るべきところで、タイミングを失うという反省はあります(笑)。石川さんのご指摘は、3年程前からはじめた社内でのコミュニケーション研修の影響もあると思います。世代によってコミュニケーションの取り方が異なることが肌感覚で分かり、考え方の違いを認めようと意識するようになりました。たとえば理屈を優先する人がいれば感情を優先する人もいる、締切に向かって線形に進んでいないと気が済まない人もいれば、帳尻が合えばいいだろうという人もいる。それぞれ一つの目標に向かうにしても、その手法や人との関わり方が違うし、同じ局面でもそれぞれ感じ方が違う。だから、人の話をしっかり聞かなければいけないなと意識するようにしています。昔は自分と考えが違うというだけでカッと怒っていたこともありましたが、おそらく伝え方が悪いということもあったのでしょう。
【石川】捉え方を変え、みなそれぞれ違うという前提に立てば、むやみにイラッとすることが少なくなると。
【川野】そうですね、何か考えがあるのではないか、彼の考えていることは何だろうという方に意識を向けるようになりました。