飯島が目を覚ますと、そこには口髭を蓄えたガタイのよい男が立っていた。
迷彩色のタンクトップから伸びた手は、丸太のように太く、その先には長さ20センチのバタフライナイフが握られていた。
「お目覚めだな」
男はつり上がった目で、飯島を見下ろした。ぼんやりした意識が少しずつ回復していき、初めて自分の手と足がロープで縛られていることに気がついた。
「動くな。強盗だ」
「強盗……? あぁ!」
その言葉を聞いて、瞬時に記憶が蘇った。営業時間終了後、経営するお菓子屋を一人で店じまいしているときに、突然、裏口から人が入ってきて、白い布を口に当てられて、そのまま意識を失い……ようやく飯島は、状況を呑み込むことができた。
「おっ、お願いです! 店にあるお金は全部あげます! だ、だから、命だけは助けてください!」
飯島は震える声で叫んだ。しかし、男は口元を少し歪めながら、飯島のほっぺたに冷たいナイフを当ててきた。
「それはダメだな」
「お金は全部あげますよ!」
「あんたが寝ている間に調べさせてもらったが、その金が、この店にはないじゃないかぁ!」
「へっ」
飯島は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
男は「なぜ金がないか、わかっているのか」とたたみかける。
「さぁ……気がつけば、いつもお店には、お金がないんです」
お店の回転資金が底をつきかけたうえに、強盗にまで同情される自分がなさけない。