私は全国展開している大手小売りチェーンの1店舗を4年間、任されていましたが、先ごろ昇進して2つの州にまたがる複数の店舗を監督する立場になりました。ところが、これまでの習性をなかなか捨てられません。とくに、私が監督するすべての店で起きていることよりも、1つの店(これまでの私の店)の成績のほうがいまだに気にかかってしまいます。
ジェリー・マーテラーロ(ニューヨーク州、ハンティントン・ステーション)


 

あなたは問題の核心をとらえておられる。あっぱれです。

あなたと同じ立場のほとんどの人が、自分が昇進の最もよくある落とし穴の1つにはまっていること、つまり、新しい仕事に気負って取り組んでいるけれど、片足は古い仕事に残したままであることを認めるだけの度胸を持ち合わせていません。

実際に、あなたの昇進で2人の人間が新しい仕事につきました。あなたと、あなたの後任になった人です。リーダーとしての今のあなたの仕事は、2人がそれぞれに持っている革新的な新しいアイデアを表に引き出すことです。あなたも、あなたの後任も、古巣を思うことに始終エネルギーを使っていては、それは達成できません。

それよりも、広くなったあなたの新しい世界を知ること、そして、そこでの仕事の水準を高めることにエネルギーを使ってください。そのためにはどうすればよいでしょう。

まず、あなたが監督するすべての店を実験室とみなしてください。それらの店はたしかに、どれもみなほぼ同じことをしていますが、より効果的な独自の手法や手順を持っている店も必ずあるはずです。あなたの仕事は、そのようなベストプラクティスを見つけて、それが地球誕生以来最高のやり方であるかのごとく、それを推奨して回ることです。

新しい立場では、自分の監督下のすべての店のすべての人に、互いのベストアイデアについて語り、それを採り入れ、改善していってもらいたいと望むのです。そうすれば、誰かの肩越しに昔の店の心配をするよりも、はるかに大きな価値を加えることができるでしょう。

仕事の水準を引き上げるために使えるもう1つのすばらしいツールは透明性です。あなたのビジネスではどの測定基準がパフォーマンスを押し上げるかを、あなたはすでにご存じです。在庫回転率か、1平方フィートあたりの売り上げか、それとも顧客満足のなんらかの重要な指標なのか。

これらの測定基準がまだしっかり根づいていない場合には、その状態をすぐに正してください。トップから最下位までのランキング表が必ずすべての店の目に触れるようにしてください。

そのような業績評価の明快さは驚くほど効果があります。成績のよい店にとっては大いにやる気を起こさせる1種の表彰になりますし、成績の悪い店には、新しい、より効果的な仕事の方法をどこで探せばよいかを示唆するものでもあります。要するに、絶え間ない学習と改善を応援し、促進してくれるのです。

より高いレベルの仕事をすることにより、「昔に片足を残したまま」の落とし穴を避けるためのさらなる方法は、すべての店長の定期的かつ精力的なパフォーマンス評価を行うために、すばやく行動することです。あなたの質的評価の基準は、あなたが掲げている望ましい価値、すなわち優れた新しいアイデアを見つけ、採用するなどの行動をを彼らがどれだけ見事に実践しているかになるでしょう。そして、数量的評価の基準は、あなたが推進している透明性の高い測定基準になるでしょう。

これら、質と量を測る2つの評価によって、最高の人材に見返りと賞賛を与え、中間層に支援とコーチングを与え、パフォーマンスの低い社員を排除する絶好の機会をつくることができます。その結果、すべての人にこれまでより高いパフォーマンス基準が求められるようになるはずです。

あなたの新しい仕事は前の仕事より幅広いものですが、もっと大切なことは、それが昔の仕事とは違うということです。今のあなたにはやるべきことがたくさんありますが、そのなかにはかつてやっていた仕事は含まれていません。その仕事は、あなたが残した「完璧な状況」をさらに改善する作業に専念できる後任者に任せてください。

(回答者ジャック&スージー・ウェルチ 翻訳=ディプロマット (c)2006. Jack and Suzy Welch. Distributed by New York Times Syndicate.)