社員100人足らずの小企業にとって、戦略の要点は何だと思われますか。学者やコンサルタントのアドバイスは、大企業向けのものがほとんどです。資源が限られている小企業にとっては無意味と思える山のようなアドバイスの中で、私たちは右往左往しています。(トマス・ボックス カンザス州、ピッツバーグ)


 

会社が大きかろうが小さかろうが戦略は戦略です。戦略とは勝利をもたらす価値提案にすぎません。つまり、顧客が市場に出ている他の選択肢よりこちらを選びたいと思う製品やサービスのことをいうのです。そこから先は、戦略はすべて実行にかかっています。実行という面では、小企業には少し有利な点があります。

とはいえ、あなたが耳にされる戦略についてのアドバイスの大半が、大企業にしかあてはまらないように感じられるのも無理はありません。戦略が高度に知的で科学的な手法であるかのように、なにもかも複雑に語られすぎているのです。実際、手間のかかる論理的な数値計算やデータ分析が推奨されているのですから、それを実行できるだけの人材と時間と資金をそろえようと思ったら、大企業でなければ無理ということになります。

でも、そんなことは無視すればいいのです。細かい能書きやいろいろなシナリオを知れば知るほど、人は過剰な心配にとらわれてしまいます。いいですか、いったん大きな気づき(aha)を手にしたら、戦略はおおよその方向性にすぎません。おおまかなコースであって、市場の変化に応じて見直しや修正を加えていくものです。それは流動的でなければなりません。生きていなければならないのです。

企業は大小を問わず、次の5つの問いを検討するだけで、間違いなく戦略を生み出すことができます。

●競争の土俵はどのような状況か。
●競争相手の企業はこのところ何をしているか。
●わが社はこのところ何をしているか。
●将来、どのようなできごとや変化がわが社の不安要因になるか。
●上記のすべてを踏まえたうえで、わが社の勝利の行動は何か。

比較的時間もかからず、理論も要らないこのプロセスには、当然、教科書やコンサルタントは要りません。必要なのはただ1つ、大きな夢を描き、熱く議論し……そして最終的にはダイナミックな作戦を考え出せる、情報を備えた熱意ある社員のチームだけです。

このプロセスを終えたら、次はいよいよ実行です。そしてそのときこそ、小企業が本当に成功できるのです。社員が100人しかいなければ(1000人の場合でも)社員に戦略を伝え、それを共有し、高め合う熱意と「自分たちにはできる」という意識で彼らを奮い立たせるのは、大企業の場合よりはるかに簡単です。

そして、ひとたび戦略を開始させれば、小企業は小型船と同じく、大型船舶なみの大企業よりすばやく方向を調整できます。また、巨大なライバルに比べると人材の採用も短期間ででき、形式主義的な障害が少ないぶん意思決定も早く、間違いを修正するにもそう時間はかかりません。

そうは言うものの、戦略の問題では小さいことが全面的にすばらしいわけではありません。最大の問題は、資源が限られているため何度もミスをすることが許されないことです。大企業はいくつもの失敗を許容できます。投資した大きな気づきの1つや2つや3つがうまくいかなくても、つぶれることはありません。それに対し小企業は、1つの大きな戦略ミスが命取りになりかねません。

ですから、小企業がなすべきことは、自社の価値提案をより高い基準を満たすものにすることです。小企業は卓越した何か、たとえば特許を取ったアイデアや、画期的な技術、超低コストのプロセス、ユニークなサービスなどを持っていなければなりません。それが何であれ、それは顧客を引きつけ、釘づけにする力のあるものでなければならないのです。

そして、そのような何かを持っているとき、小企業は勝利の戦略を誇ることができるのです。大企業を含めて誰1人本当は必要としていない図やグラフ、レポートや調査、さらには山のようなパワーポイントのスライドを使うことなしにそれを成し遂げたわけですから。

(回答者ジャック&スージー・ウェルチ 翻訳=ディプロマット (c)2006. Jack and Suzy Welch. Distributed by New York Times Syndicate.)