<理論編>
「ご褒美」には効果があるのか?
自分の将来のためには勉強したほうがいい、ということは子供も十分理解しています。しかし、大人がなかなか禁煙できなかったりジム通いが続かなかったりするように、習慣を変えるのが難しいのは子供も同じです。この「遠い将来の利益よりも近い将来の利益が大きく見えてしまう」性質のことを経済学では「双曲割引」といいます。
では、どうやったらわが子が「勉強する子」になってくれるのでしょうか。カギになるのは「どのように勉強を習慣にするのか」ということです。
最初に「ご褒美」の効用について考えてみましょう。
「子供をご褒美で釣る」ことに抵抗がある保護者の方も多いかもしれません。しかし最近の経済学の研究には、ご褒美やボーナスなどの金銭的なインセンティブ(誘因)を与えることで、さまざまな習慣を形成できることを証明したものがあります。
米国では、大人を対象に禁煙や運動を習慣化させる目的でさまざまな実験が行われ、インセンティブが習慣形成に一定の効果を上げることがわかってきています。米国ではさらに、子供の学力がインセンティブによってどう影響されるかを調べる実験も行われています。なかでも有名なのは、約3万6000人もの児童・生徒が参加した、米ハーバード大学のローランド・フライヤー教授による大規模実験です。
フライヤー教授の実験には、大きく分けると2つのタイプがありました。一つは「学力テストや通知表の成績がよくなったら報奨金を出す」というもの。つまり「いい成績」というアウトプット(成果)に対して報酬を出したのです。
その一方、「本を読む、宿題を出す、きちんと出席する、制服を着る」といったインプット(投入)に対して報酬を与えるという実験も行いました。
結果を簡単にまとめると、大人に対する実験ではアウトプットにインセンティブを与えることで禁煙や運動を習慣化することに成功したものが多いのに対して、子供の学力を上げるためには、インプットにインセンティブを与えることが有効だということがわかりました。
親はつい「今度のテストで80点以上取ったら、(遠い将来である)誕生日にお小遣いをあげるよ」という約束をしてしまいがちです。しかしフライヤー教授の実験結果に基づけば、それよりも「1時間勉強したら、(近い将来である)すぐにお小遣いをあげるよ」としたほうが効果的であることが示されています(図1)。