中小代理店のバックアップが躍進の背景!?
無名ゆえについ穴場・秘湯を、あるいは一般客には縁遠い超高級旅館をイメージしがちだが、八幡屋は写真の通り客室約145、収容800人を誇る近代的大型旅館である。東日本大震災からしばらくの間は近隣の避難民を受け入れたという。露天風呂はもちろんのこと、ビジネス用のコンベンションホールあり、子どもが喜ぶ屋外プールあり、カラオケボックスやゲームセンターもある。
今回の総合1位でさぞかし年末・年始は賑わったろうと思いきや、「もともとウチは湯治場で、観光地の温泉のように季節による宿泊客の変動がなく1年を通じて忙しいんです。1位になって特に客数が増えたとか、こちらが特別意識して何かをしているということはありません。お客様はほとんどがリピーターで、今年の正月も毎年と同じ顔触れでした」と女将の渡邉和子さんはいう。
ホテル・旅館百選トップの称号は、旅館業を営む者なら誰もが欲しいところ。実際、トップ10の常連は、来年は一つでも上のランクを目指そうとあれこれ準備をする。ちなみに八幡屋は過去3年10位前後を行き来していたが、女将いわく、旅館業者として恥ずかしいくらい全く意識していなかったという。
「母畑温泉はどんなに頑張ってもしょせんは湯治場です。明治13年に湯治旅館として創業、3回の大規模な増改築を経て今日の姿になりましたが、40年前はすきま風が吹きこむ木造の湯治場でした。また宿泊客が周辺を観光しようにも、これといった施設が何もない。一流温泉地にはなれっこないし、せめて田舎の実家に帰ってきたような思いになってくれればと頑張ってきました」
東日本大震災後、従業員の多くが退職した。震災前の方があらゆる面で充実していたし、「なんで今なの?」という思いすらあるという。それでもしつこくナンバー1の理由を尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。
「自炊・半自炊から脱却しようとしていたころ、大手旅行代理店は見向きもしてくれませんでした。そのとき、何とか世に出してやろうと本気になって売ってくれたのが中小旅行代理店の方たち。そうした方たちの票が集まったのでないかと思います」
泉質はアルカリ性単純温泉(45°C)。宿泊料は平日1泊1万3000円から。土日でも1万5000~1万8000円の価格で、日本一の旅館のおもてなしを体験できる。最寄り駅は水郡線磐城石川駅。地元石川町役場商工観光課は、「北須川沿いの桜並木が美しい4月の桜まつりの時期がおすすめ」という。