人間としての価値の素晴らしさを知るべき

【三宅】最近、スポーツに限らず、教育界でも産業界でもグローバル人材育成という言葉がキーワードになっています。世界に伍していける若者を、もっと増やしていこうということですが、辻先生が考えられるグローバル人材のイメージを教えてください。

【辻】結局人間とは、自分の過去の経験に基づいた、自分の居心地のいい領域の中で生きるという習性のある生命体なんです。居心地のよさの中で生きたい。みんな変わりたいといっても変われないのは、それが一番の理由です。ただし、いつも固定化された環境で生きていたのではグローバル人材にはなれないでしょうね。

これから世界にどんどんつながっていこうとするなら、どんなときにも、揺らがず、とらわれず、もっと柔軟に自然体で生きていけることが基本です。それを加速させていくためにも、英語力があったほうがいいのは間違いありません。ただ僕は、人間はコミュニケーションの生き物なので語学のスキルも大切ですが、根本はライフスキルが高いことがグローバル人材の必須条件だと考えています。つまり、ここでも「Flow」でいることが必要になってくるのです。

スポーツの世界でも、どんどんグローバル化が起こっていきます。例えば、北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手にしても、近いうちにメジャーリーグに挑戦するでしょう。おそらく彼は、アメリカに渡るまでに英語を体得すると思います。彼は、必要なことは絶対にやり遂げるのです。アメリカでプレーするという目標設定をしたら、そのためにするべきことを絞り込んで実践し達成していくという方法をとっていきます。その目標に英会話は間違いなく入っていますね。

『対談! 日本の英語教育が変わる日』三宅義和著 プレジデント社

【三宅】野球の才能にあふれているだけではないのですね。一流選手の一流たる所以はそうしたところにもあるのですね。

【辻】サッカーの中田英寿さんが、イタリア語で元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニ氏にインタビューしている映像を見たことがあります。大谷選手も絶対にそうなると思います。

一方で、イチロー選手は、日本語での表現にすごくこだわりを持っている人です。もちろん、英語もできるでしょうが、自分の話す日本語を大切にしているから、いつも通訳を使うようにしています。多分、日本語の語感で自分の心をマネジメントしているからですね。

【三宅】最後に日本人英語学習者と、将来のアスリートたちへの励ましのメッセージをいただけますでしょうか。

【辻】誰にでも足りないことがあります。僕にしても、いくつかの仕事をこなしていますが、毎日のように不足感はあります。しかし、そこにばかり目が行ってしまうと「あれもできていない、これもダメだ」というふうにネガティブになってしまう。

確かにそんな場合もあるでしょうが、1人ひとりが人間としての価値の素晴らしさを知るべきです。足りないことはあるけれども、改善してよりよくなっていけば、どんな人もダメなどということは絶対にないわけです。そのことを、もっと信じてほしい。それが、一番伝えたいことです。

(岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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