美術品と同じように楽しみ、受け継ぐ

「日本は昔から非常に重要な市場です。洗練され、知識を蓄えられ、世界の中でも優れていると言える日本の皆様との絆を深めなければ、私どものビジネスは成功したとは言えないと考えています。近年さらに日本に注目している理由の一つには、日本の富裕層の方々の考え方が多少変化し、ハイジュエリー(約3000万円以上の宝飾品)に対する関心が、一層高まってきたことがあります」

カルティエ・ジャパン社長
カルロ・ガリリオ

イタリア・ビエラ市出身。1995年よりエルメネジルド・ゼニア勤務、99年よりゼニアジャパンでCFO、副社長を務める。2009年リシュモングループ入社。アルフレッドダンヒルジャパンCEOを経て2013年より現職。

日本在住17年のガリリオ氏。まずは日本の富裕層の特徴について、こう語る。

「日本の文化というのは、富をあまり見せびらかさない。ハイジュエリーをお買い求めになる日本のお客様の動機は、美術品を買い求める方々と非常に似ていると思います。ピカソやルノワールの作品を買っても皆に見せびらかさないで、お家の方々でご覧になる。宝飾品の楽しみ方もそれに近い。美術品同様、世代を超えてコレクションを引き継ぎ、また加えていこうというお客様が多いようです。だからこそ、品物を選ぶ際にも、時間をかけて細かい点まで精査し、何度も身につけてから購入する方がほとんどです」

そんな日本の富裕層だが、近年はブランドものの宝飾品の資産価値に注目して、長期投資の対象として購入するケースが増えたとのこと。

「私どもは、ハイジュエリーの作品を一つつくるのに、平均して2年の歳月を費やします。その価値は長く保たれる。15年、競売大手サザビーズのオークションで“ピジョン・ブラッド(鳩の血)”と呼ばれるルビーを用いた指輪が約36億円で落札されました。10年前の落札価格の4倍です。こちらは極端な例かもしれませんが、ご自身が所有している間はその美しさを楽しみ、将来的には資産として別の形に変えようと考えている方も確実に増えています」

受注会でも、カルティエがコレクターから買い戻した100年近く前のアンティーク作品が飾られていた。

「期待以上のお客様にお越しいただき、売り上げ的には、歴史上トップ3に入るほどの大成功でした」

富裕層の消費動向に詳しい経済評論家の加谷珪一氏によると「ジュエリー投資は、大富豪クラスにとっては選択肢の一つになりうる」と分析する。

「金融理論、投資理論から言うと、資産を増やすという意味での投資対象としてはちょっと弱い。でも、本当にお金を持っている富裕層は資産を減らさなければいいという考え方です。価値が減りにくい、かさばらないという意味では十分投資対象になります。何より見て楽しめる点が、ほかにはない魅力ですね」

また、日本の富裕層が以前に比べて海外ブランドの購入に意欲を示している理由として「世代交代」を挙げる。

「昔の富裕層は、宝飾品というと親の代からお世話になっている外商の人から買うのが定番でした。しかし、今の中高年の代ではそういったカルチャーは消えつつあります。選択肢が多くなった分、華やかな海外ブランドに目がいっているとも考えられます」

(加谷珪一=監修 平松唯加子(カルロ・ガリリオ氏)=撮影 Masahiko Takeda @cartier=写真)
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