何人かの話を統合し、ひねり出した“生きた”アイデアを社内の打ち合わせで発表すると、一気に上司であるパートナーからの注目を集めた。会いにいったのはたった3人。情報量が圧倒的に少なくても、最高の結果を出せると知った。

「晩年をアメリカで過ごしたドイツ人建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉に“Less is more”というものがあります。 数を減らして、限られたものの価値を高くする。メジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースは、09年に球場を新設したとき、わざと座席の数を減らしました。一席あたりの価値をあげて、入場料収入をあげたのです。“Less is more”は、情報にも当てはまります」

情報を闇雲に浴びることで害になることもある。

「僕は影響を受けやすいので、新聞や本を読むと、人の意見を自分の意見のように勘違いしてオリジナルの発想ができなくなる。みんなが思いつくことを自分が思いついて新しい発明をしたような気になることはしたくないんです。知っている情報を増やしていろいろなことに詳しくなる“情報屋”になることと、オリジナルのアイデアを生むことは僕の中ではトレードオフになると思っています」

最低限の情報で独自の発想を生むため、常日頃から情報の少ない環境づくりを心がけているという。

「人に比べて、スマホを見ている時間が圧倒的に少ないです。1日せいぜい30分程度でしょうか。情報を遮断する目的もあるし、もう一つには思考する時間をつくるためでもあります。移動の車や電車の中でもスマホを見ることはなくて、ひたすら考え事をしています。自分の頭で考えた分だけオリジナリティは高まっていく。考えるテーマは、担当する案件の数だけ常に頭の中にあります」

新聞やニュースは見出しのみチェックする。目的は情報に色をつけないことだという。

「たとえば、ニュースでジャーナリストがドナルド・トランプを批判していて、ほかの番組でトランプを賞賛する評論家の話を聞くとします。両方聞くと、僕の場合、バランスをとろうとして中途半端なことしか言えなくなってしまう。だからニュースも内容までは見ないようにしているんです」

SNSも極力使わない。ツイートすることはわずかで、Facebookも寝る前にぼーっと眺めるだけ。友人の投稿を見て「元気そうだな」と思う程度。自分で発信するのは、連載や会社の告知くらいだという。