「逃げない」ことがリーダーの条件

私は常々、「永守社長は、なぜ私を採用したのだろう?」と疑問に思っていました。なぜ自分がグループ会社の再建担当に選ばれたのか、その理由を知りたいと思っていたのです。

あるとき、その疑問を尋ねるチャンスがやってきました。私の質問に対して、永守社長は即答でした。

「君は、逃げないと思ったからだ」

このとき、永守社長の人物評価の基準が「逃げない」ことにあるのだと、改めて痛感したものです。

『日本電産 永守重信社長からのファクス42枚』(川勝宣昭著・プレジデント社刊)

日本電産は、赤字企業の買収・黒字化を戦略の中核として据え、グループ全体の規模拡大・業績拡大を果たしてきた企業です。しかし、赤字企業を再建するということは、並大抵のことではありません。

通常でも経営ということ自体が困難の連続ですが、再建となればなおさらです。それまでの延長線上で物事を進めていけばいいというものではなく、常に新しく、大きなエネルギーを必要とします。その困難から逃げてしまったら、再建はけっして成就できません。

企業再建は、私自身にとっても人生初めての経験でした。再建指令が出されたときに、「やってやろう」という気持ちもありましたが、実際に1年間で会社を建て直し、黒字にするというのは大変なことで、悩んでも悩んでも答えが見つからず、正直、「逃げたい」と思ったことも何度かありました。

だが、逃げたところで楽ができるわけでもない。社員たちは懸命に働いている。その姿を想像すると、自分が背負っているものの大きさを改めて感じました。「逃げたらどうなる? 社員はどうなる? 俺は絶対逃げるわけにはいかない、立ち向かうしかないのだ」と、自分自身に言い聞かせたものでした。本気でそう思えたとき、経営というものが何なのか、わずかながら自分なりに身をもって感じ取ることができたと思いました。

永守社長は、その人が困難をどういう形で解決しようとしているか、それを見ています。言い換えれば、その困難をリーダー自身が背負っているかどうかを見ているのであり、逃げずにそれができるかどうかがリーダーには問われているのです。

※本記事は書籍『日本電産永守重信社長からのファクス42枚』(川勝宣昭著)からの抜粋です。

(gettyimages/Bloomberg=写真)
【関連記事】
日本電産・永守社長の言葉「明日から伝票を見よ」
日本電産・永守社長の言葉「1番以外は、皆ビリや」
日本電産・永守社長からのファクス「自慢話が飛び交う会議にせよ」
永守重信「発想の原点は“100年後にどうなっているか”」
日本電産が世界で勝てる3つの理由