デビュー作『電光空手打ち』から遺作の『あなたへ』

展示は2フロアにわたる。

3階のエントランス部分には写真家、森山大道氏が撮った新宿の街頭風景がある。高倉健本人を写したものではなく、新宿の町中にある映画館前のポスターだ。展示の構成者は本人の肖像ではなく、街頭のポスター写真を飾ることで、あくまで庶民のスターだった健さんを表現したのだろう。

エントランスに隣接している部屋には画家、横尾忠則氏が展示ディレクションを手掛けた映像とインスタレーションがある。高倉さんの盟友ともいえる横尾氏の気持ちが伝わってくる作品だ。

階段を下りて、2階のフロアに展示されている映像だ。モニターには生涯の出演作205本のなかから10秒から2分の範囲で映像が切り取られている。

デビュー作『電光空手打ち』(1956年東映)から遺作の『あなたへ』(2012年 製作委員会)からすべての映画を集めて、フィルムを修復してある。膨大な手間と努力のたまものと言える。

最初から最後まですべてを見ていくと映写時間だけで2時間にもなる。それでも、多くの人が館内にたたずんでいる。高倉健という俳優の持つ磁力が人々をひきつけている。

映像は年代順に並べてある。モニターの横には封切りがあった年に起こった出来事が記されているので、観客は好きな映画を見ながら、その年に自分自身に何があったかを思い出すことができる。

たとえば……。

「『八甲田山』(1977)に健さんが出た年、オレは結婚したんだ」
「『駅 station』(1981)には最初の子どもが生まれた」

出演作が多いだけではなく、長い間、スターとして活躍した人だからこそ、これだけの作品に出演することができたのである。

そして、同展における映像のさわり部分を見ていると、あらためて本編をもう一度、見に行きたくなる。展覧会の近所の映画館で高倉健主演映画作品を上映してくれればいいのにと思ってしまう。