基本的枠組みがすべて凝縮。歴代大統領も参照
アメリカでは、スピーチが下手だと出世できないといわれるくらい、人生においてスピーチの巧拙が大きな意味を持ちます。
ご紹介したリンカーンのスピーチは、1863年、南北戦争最大の激戦地ペンシルベニア州ゲティスバーグにおける戦没者記念碑の式典で行われたものです。世界中でもっとも有名な演説のひとつであり、「短くまとめる」「キーフレーズは繰り返す」「聞き手に生きる意味と希望を与える」といったスピーチの基本原則が詰め込まれています。歴代大統領は皆、スピーチの際、これを手本にするといわれています。
とりわけ、聞き手に当事者意識を醸成し、行動へと喚起する構成は、私たちビジネスマンにとっても大いに参考になります。
リンカーンは兵士たちに、「我々の理念は、自由と平等であり、何よりも大切にすべきものである」「守るべきものがなくなった地上というものに何の意味もない」「大切なもののために、多くの仲間がすでに命を捨てたのだ」と、切れ味よく短いフレーズでたたみかけ、この戦争の大義を兵士に強く訴え、当事者意識を醸成します。
スピーチにおいて、聴衆は「壮大な何か」と接続できたと感じたとき、強力に心が動かされます。ですから、西洋においては、神との一体感を味わえるかどうかが一つの大きな柱であり、リンカーンのこのスピーチでも、「神の正義は我にあり」という認識が、行動へと誘うスイッチになっています。
リンカーンは、「アメリカは『自由』『平等』を守るために建国され、以来今日まで自由と平等のために人々が命を捧げてきた国であり、我々国民すべてにその目的を果たす役割がある。そのためには命を捨てることも辞さない」と述べ、これを聞き手が「我々の義務」として自ら進んで実践するように仕向けています。もっと直接的に言えば、生きる意味と希望を与え、「だから兵士の皆さん、今から弾丸の海に突っ込んでください」と、兵士を死に誘うスピーチになっています。
スピーチというのは、人を死に向かわせることを可能にするほど強力なものなのです。