日本でも注目されはじめたマインドフルネス。瞑想などを通じたストレス軽減、能力開発のメソッドとして、グーグルなどの企業も研修に取り入れていることで知られているが、具体的にはどんな効果があるのか?
世界的ベストセラーとなった『スタンフォードの脳外科医が教わった人生の扉を開く最強のマジック』は、マインドフルネスによって人生が変わったという著者の自伝である。ほんとうに人生を変えるほどの力がマインドフルネスにあるのか? 「あるんです」。本書日本語版の解説者である荻野淳也さんは言う。日本におけるマインドフルネスリーダーシップ教育の第一人者で「自分の人生と重ねて読みました」と話す荻野さんに、前回に続き、マインドフルネスの持つ本当の力について聞いた。

マインドフルは「行動を起こす」ためのもの

荻野淳也・マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事

『スタンフォードの脳外科医……』の著者、ドゥティ氏も、お金で痛い思いをします。彼は家賃も払えないほどの貧困家庭に育ちましたが、マインドフルネスのおかげで大学にも進学することができ、医学部に合格し、念願の外科医となり、投資家としても大成功します。でも実際には、結婚生活は破綻、お金目当てに寄ってくる人たちに囲まれたむなしい生活でした。結局そのお金を全部失い、友人も離れていき、ひとりぼっちになったドゥティ氏は、ルースのある言葉を思い出します。「心のコンパス」。心を開けば、正しい方向に導かれる、ということを彼女は教えてくれたのでした。ドゥティ氏はなぜ自分は医師になりたかったのか、というところに立ち戻り、本当にやりたかったのは、自分の傷だけではなく、自分の周りの人の傷も癒すことだったことに気がつきます。

この話は本の10章に出てくるのですが、ここからのドゥティ氏の心の旅をたどりながら、ラストの13章まで泣きながら読みました。自分自身の人生とあまりにも重なることが多かったからです。本のラストでは、ドゥティ氏が面接を受けることすら拒絶されたメディカルスクール(結局、“マジック”のおかげでなんとか入学できたのですが)の入学式に呼ばれ、スピーチをする場面です。ドゥティ氏は医師のたまごである学生たちに、自分の経験を話します。ルースはマインドフルネスのマジックをドゥティ氏に教えるときに「これを他の人に教えること」を約束させたのです。彼は約束を守りました。

私も何度もつらい別れや失敗を経てマインドフルネスに出合い、いまはその実践者として人に教える立場でもあります。ドゥティ氏の話はそのまま映画になりそうなほど感動的なものですが、私の話でさえドラマのようだと言って聞いてくれる人もいます。でも、大切なのは人の人生の物語ではなく、自分の人生の物語です。あなた自身の物語です。マインドフルネスは、ただ瞑想してすっきりするためのものではありません。行動を起こすためのものです。

人はなぜ、行動を起こせないのか。ひとつには、考えすぎなのです。時間がない、忙しい、失敗するかもしれない、誰かが反対するかもしれない……こうした声で頭のなかがいっぱいになって、身動きができない。もうひとつは、自分を信じていないということ。自分がそんなことできるわけがないとやる前から決め付けてしまう。それ以上に深刻なのが、行動を起こす必要に気づいてさえいない人が多いということです。