視点3「情報の非対称性の克服」~既存業界にとらわれず、直接、顧客に売り込み
第三の点は、「情報の非対称性」の克服です。完成したバブル90は多数の展示会で称賛を浴びます。しかしそれからの4年間、ほとんど売れず、会社は倒産寸前まで追い込まれます。理由は、商品の情報が、商品を本当に必要としている顧客に直接届いていなかったことにありました。
例えば、展示会に出品すると、大手の厨房機器メーカーや商社には、バブル90が優れた商品であることがすぐわかります。しかし彼らはそうわかっても、「値段が高くて売れない」「今は節電ブームで節水は流行らない」などと理由をつけて優先順位を下げ、情報をエンドユーザーに伝えなかったのです。古い業界では、商社やメーカーが大きな会社の情報を優先的に顧客に伝えようとするので、DG TAKANOのような企業の情報をないがしろにしがちなのです。結果、同社の優れた技術の情報がエンドユーザーに伝わらないのです(=情報の非対称性)。
この事態に気づいた高野氏は、情報をエンドユーザーに直接伝える手段をとります。すなわち、DG セールスという販売会社を作り、飲食店などへのサンプル提供と直接営業を始め、そして、一気にブレークしたのです。
飲食店は毎日、食器洗いや調理、トイレに大量の水を使います。一店舗で月10万円以上の水道代も珍しくありません。ある飲食店では、バブル90を使ったことで16万円の水道代が7万円に下がり、サンプルの導入を知らなかったオーナーが、店が潰れるのではないかと慌てて飛んできたそうです。商品価格は高価ですが、数カ月で償却でき、その後ずっと水道代が安い。売れない理由がありません。
メディア露出を工業系の業界専門紙から、一般の消費者向けに変えたのも、情報の非対称性を克服するためです。15年にTBSの『がっちりマンデー』、フジテレビの『めざましテレビ』に紹介されると、商品が爆発的に売れただけでなく、一般の人にも社名が広く知れ渡りました。
高野氏は番組の中で、商品の節水能力や品質の高さを説明するだけでなく、「バブル90によって、世界中で水に困っている人々を救う」という社会的なメッセージを語りました。すると、「こんな会社で働きたい」と、応募が殺到。メッセージは女性にも響き、1人の求人枠に数百人が応募するという事態になったのです。
いかがでしょうか。事業承継をする多くの企業では、子息がまず専務などのポジションで入社し、業務内容を覚えてから、そのすべてをまるごと引き継ぐケースが一般的です。しかし、高野氏はそれとは全く異なるアプローチで、第二創業を成功させました。DG TAKANOの躍進は、今後の事業承継の新しい形なのかもしれません。
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