農業もビジョンが問われる時代

――では、生産領域の課題って何でしょうか。

【山田】うちは「ことねぎ会(こと京都にねぎを納める生産者ネットワーク)」に入っている生産者が、それぞれ生産計画を立てます。そのなかで月によって多い、少ないがあります。その凸凹を「こと京都」が埋める生産体系を構築しました。京都だと、9月、10月、1月、2月はねぎができにくい。そこで足りない分をつくる。だから多すぎて廃棄されることもありますが、ロスが出るのを承知でつくっています。

――契約している農家の生産量は安定していますか。

【山田】うちの研修生や、大量に生産してくれるところはほぼ計画どおりやってくれますが、農家のオッちゃんとかは「ちょっと葬式があってなー」と平気でひと月ずらす(笑)。個人的事情で左右されすぎるので、予定どおりつくってくれたら単価も高く、ずれたら安くしています。がんばった人がちゃんと儲けられるような仕組みにしている。だからわれわれの生産に関しては、先ほど言った廃棄、ロスのほうが課題ですね。

――販路についてはどうでしょう。ラーメン屋さん、料亭さんなどBtoBが主体のようですが、どのように販路を開拓し、どんな取引先とお付き合いしているのでしょうか。

【山田】販路の情報が欲しかったらね、いまはビッグサイトや幕張メッセとかで食の展示会がいっぱいあるじゃないですか。あれに出るべきですよ。それが一番いいと思う。興味のあるところは来るし、どこが興味を持っているかというのも年によって変わる。展示会に出て調べたらいいし、情報を求めてくる人も多い。販路拡大を求めているのであれば、食の展示会で生の声を聴くべきですね。

――いろんなお客さんと付き合ってこられて、ここいうタイプの相手はいい、悪いという基準はありますか。

【山田】相手が短納期を迫ったり、急に物を納めてくれと要求したりしてきたら、急だったら1.5倍の値段ですよ、などと話し合いで解決すればいい。嫌ならやめればいい。一番困るのは単価さえ安ければいいという相手。そういうところとは話をしません。

実際、こと京都は、一緒に組みたいと言ってくれる相手としか取引しません。国産で、おいしくて、安全・安心でという部分を大切にしたい方々と組みます。先般、グループの国産ねぎ専門商社である「こと日本」の展示会も開きましたが、「ここは一体、なんぼの価格で出してくれるのや」と聞かれたら、どうぞお引き取りください、です。いまでもそういうケースがありますよ。価格しか見てないところとは付き合いません。

――産地やネットワークが広がってくると、拠点倉庫や集荷場を含めて物流の問題が浮上してきます。

【山田】うちは全国にそれなりのネットワークを張ってるからいいけど、生産者の都合で、このエリアしかできない、と決めてもいいと思います。少量なのに最初から「全国をカバーします」と背伸びするのではなく、行ける範囲を確実にやっていく。地域の物流会社ができる範囲だけ配る。商品コストはこれ、物流コストはこれなので、それらを外して取りに来てもらっても結構ですよ、というのはアリでしょう。

――次に金融機関とのお付き合いについてお聞きしたいのですが。

【山田】いまは、あらゆる金融機関が農業に貸そうと動いています。政策金融公庫も、担保よりも、その人のビジョンや人となりで金を貸す仕組みをつくっている。逆にいえば、いくら担保力があっても計画のないところは借りにくい。ビジョンや人物が問われます。ただ、そうは言っても農業で、どんなビジョンや計画がいいかを一概には言えません。若い農業経営者が借りたければ、追い風が吹いているのは事実です。