“人間学の宝庫”中国古典を現代に生かすには?

山本夏彦さんという辛口のコラムニストがいた。たくさんの本を書き残しておられるが、そのなかで「人間の知恵はすでに中国古典のなかに出尽くしている」というコメントにぶつかって、私はわが意を得たりという思いを禁じえなかった。

たしかに中国古典の取り上げているのは、人間の営みに関する万般の知恵である。現代風な言い方をすれば、人間学の宝庫と言ってもよい。

私は長いことそんな中国古典の知恵を、あまり予備知識のない方にもすらすらと理解してもらえるように、わかりやすく紹介することにつとめてきた。このたび上梓した『ビジネスに効く教養としての中国古典』は、そんな仕事の延長線上にある。

『ビジネスに効く教養としての中国古典』(守屋洋著・プレジデント社)

ここでは、『孫子』や『論語』、『老子』や『韓非子』を始めとして、主な古典十四冊を取り上げ、あらためて現代を生き抜いていくために必要な知恵を取り出してみた。その内容は、戦略戦術の基本から人間関係の極意、さらにはリーダーとしての器量やその磨き方などに及んでいる。

一言断っておきたいのは、それぞれの古典には当然のことながら、立場の違いによって説く内容にも違いがあるということだ。一例をあげれば、孟子のような性善説と荀子や韓非のような性悪説である。どちらの立場に立つかによって、対応の仕方も異なっていく。たとえば、性善説に立てば徳による感化が重視されるし、性悪説に拠(よ)れば法や規範による締め付けが優先されることになる。

どちらが正しいかということは、このさい問題ではない。しいて言えば、一長一短であって、長所もあれば短所もある。それぞれの長所を学び、短所を補うことができれば、あるべき理想に近づくことができるかもしれない。

そのあたりに配慮しながら、先人の知恵を現代に活かしてもらえればと願っている。