わずか6歳で9歳分の「語彙力格差」があった

佐藤久美子・玉川大学大学院教授

【三宅義和・イーオン社長】佐藤久美子先生はNHKラジオの「基礎英語」の講師としても長く活躍されました。NHK、Eテレの「えいごであそぼ」では総合指導も務めておられます。玉川大学でも多くの学校教員も育ててこられました。また、J-SHINEの理事も務められていますし、昨年からは私どものキッズスピーチコンテストの審査員も務めていただいており、大変お世話になっています。

さて、この8月に文部科学省から次期学習指導要領の中間まとめの発表がなされました。小学校の英語が劇的に変わろうとしている中、保護者の皆さんも「いったいどうなっていくのだろうか?」と、興味と不安の両方を持っていることでしょう。そこで、今日はそのあたりも詳しくお伺いしたいと思っています。

佐藤先生がよく言っておられますが、同じ年齢でも日本語の語彙力が非常に高い子どもと低い子どもがいると。その語彙力の高い子どもの母親には共通項があるそうですね。そして、それはいくつかの特徴として表せるそうですが、まずそこから教えてください。

【佐藤久美子・玉川大学大学院教授】例えば、小学校に入学する直前の幼稚園の年長さんたち約200人の語彙力を調べたことがあります。すると、6歳のお子さんで語彙力が一番高い子で、11歳レベルに匹敵するという子がいたんです。この年齢の語彙力だと「礼儀」とか「銀河」「浴室」「選挙」などが理解できますが、驚いたのはその子は「蔵書」の意味までわかる。「蔵書はどれ?」と質問すると本棚の絵を指せます。

一方で、2歳児並みという子もいました。2歳児レベルですと、例えば「頭はどれ?」と聞いても、お人形を指せません。それから、「湯気はどれ?」と聞いてもヤカンから湯気が出ている絵を選べない。同じように「封筒はどれ?」「切手はどれ?」、こういう質問に答えることができません。わずか6歳までで、9歳分の幅がありました。

では、どのあたりからそれだけの違いが生じるのでしょうか。それを試した結果、もう2歳ぐらいから、そろそろ差は出はじめています。子どもの周りにいる保護者の話し方の特徴がお子さんに影響しているんじゃないかと考え、次の3つのポイントに絞って調査してみました。

第1は、お子さんが一番身近にいる母親に話しかけた時の応答のタイミング。例えば、ここにおもちゃ箱があったとします。「クレヨンあった」って子どもが言った時に、「クレヨンあるねえ」。「赤いクレヨンあった」「赤いクレヨンあるねえ」。これは応答タイミングが早い場合です。一方で、遅いお母さまもいて、「赤いクレヨンあった」って言っても知らんぷりで、雑誌を読んだり、鏡に向かってお化粧を直したりしている母親もいるわけです。結論からいうと、応答タイミングが早いお母さまの子どもたちは語彙力も高くて発話量も多いですね。

それから第2の特徴としては、お母さまが子どもと話す時の時間、持続時間と呼びますが、それが短いほどお子さんが話す機会を増やします。だから、たくさん、それも短く返事をしていくのが理想的なんです。私どもの研究室に来る保護者の方たちを見ていますと「ねえ、赤いクレヨンあった」と子どもさんが言うと、「うん、あるねえ。赤いのあるけど、お母さんの顔を描くんだから肌色がいいでしょう」と返したりしています。これだととても発話が長くなりますね。そうするとお子さんは、次の一言が出にくくなります。だから、短く「赤いのあったね」と返し、お母さんが聞き役に回ると、子どもの発話が出やすいということがわかりました。