――「日本は実質ゼロ金利ですから、個人投資家の中には、円からオーストラリア・ドルの外貨預金にシフトする人も増えているのでは?

このところ外貨、なかでもオーストラリア・ドルの人気が高まっているのを感じます。一般に円高が進むと、外貨を安く購入できるので外貨預金の人気が高まります。リーマンショック後の円高局面がそうでしたし、今回は半年ほど前から外貨預金が増えています。

しかし、それは円高だけが要因ではありません。為替が円安に振れても、外貨を買う動きが続いています。「為替水準にかかわらず、資産を外貨に分散しておきたい」というニーズがあるようです。

背景には、日本国債や円に対する信認の低下を懸念される方が増えたことがあるかと感じます。11年1月、格付け機関のS&P社は日本国債をAAからAAマイナスに引き下げました。

10年11月のS&P社のレポートには「想定シナリオではないが、このまま財政赤字が解消されないと20年にはBBB、25年にはBBに格下げになる可能性もある」ともありました。一部の個人投資家が円だけに資産を集中することのリスクをより意識していると感じます。

東日本大震災が起きたことで、その動きは続いています。財政がさらに悪化し円への信認が低下するリスク、原発事故によって「日本リスク」を意識する人が増えました。お客様の中には、オーストラリア・ドル等外貨資産を増やしたり、ご自身もオーストラリアへ移住するという人もいらっしゃいました。

800兆円といわれる個人投資家の預貯金がありますが、外貨預金は全部を合わせても5兆円と1%にも足りません。今後も資産を外貨に分散する動きは続くと思います。

――日本の財政破綻を懸念する声も真実味を増してきました。

私が社会人になったのは1985年です。やがてバブル経済が崩壊し、山一証券、北海道拓殖銀行など大手金融機関が破綻しました。どれもその数カ月前には可能性が低いと思っていた出来事でした。その後のリーマンショックも同じです。

現時点では国債や円の価値が大幅に下落する可能性は低いとしても、資産運用の観点からは、いろいろなリスクに備えて投資先を分散しておくことが重要です。

――このところオーストラリア・ドルが米ドルに対して高値を付けています。

10年12月以来、逆転現象が起きています。長い間、オーストラリア・ドルは米ドルの価値を下回っていましたが、今回は半年以上もほぼ高値で推移しています。これからのアメリカの景気次第でしょうが、もしかしたらパラダイムが変わったのかもしれません。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=面澤淳市 撮影=鈴木直人)