都内の喫茶店で待ち合わせた剣持貢さん(仮名、59歳)。少しくぐもった声が、照明を抑えた店内に響く。休日の昼下がりとはいえ、フリース姿の骨ばった痩躯からは、勤務先の大手ゼネコンの名がちょっと想像しづらい。
月々の手取りが約53万円で、月20万円の賃貸マンションに家族4人が住む。趣味のプラモデルづくりはなかなかの高水準で、旧帝国海軍の戦艦、空母、巡洋艦、潜水艦などを数多く手がけている。携帯の中に、細部に独自で手を加えたプラモデルの写真が多数保存してあって、こちらに見せながら説明し始めると止まらなくなった。
「やりだしたら、徹底しないと気が済まない。まだ箱を開けてないのもたくさんありますよ」
剣持家もご多分にもれず、教育費が大きな負担となっている。私立高に通う次男(17歳)が今春、3年生になったばかりだ。
「バイトもやめて、今年は受験態勢。年間の授業料80万円のほかに、塾代が月3万~4万円かかる。昨年は、修学旅行でカナダに行った費用が30万円。新型インフルエンザのニュースを見て、『オレが行ったところだ!』とびっくりしてた(笑)」
長男(21歳)はいわばフリーター。普段は自宅にいるが、週1回は友人と遊びに外出する。先日も、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に「E.T.のアトラクションがなくなるから」と、深夜バスにもぐり込んだ。
「最初から大学に行く気はなくて、バイトが楽しくなっちゃったみたい。家にカネは入れてこないが、まあ、高校さえ出てりゃいいと思ってるから、そんなに気にはしていませんよ。大学は必要を感じたときでいい、授業料くらいは自分で稼いどけ、と常々言ってある」
しかし、教育費以上の重石となっているのが、ほかならぬ親の介護だ。