実母(88歳)が要介護「3」。「4」「5」が対象の特別養護老人ホーム(特養)ではなく、介護老人保健施設に入っている。住民票まで施設に移す特養と違い、3カ月ごとにほかに移らねばならないから、次に移る先の予約も欠かせない。
「母の持ち家がウチの近所にある。母は『家に戻りたい』というけど、会話がだんだん噛み合わなくなってきているし、自立歩行もちゃんとできないのに、冗談じゃない。昼ならヘルパーも頼めるけど、問題は夜だよ。家の風呂場で倒れたまま、2日間誰も気付かなかったことがあるのに」
費用は月に約12万~13万円。実父は年金を貰わぬうちに他界したため、母親に支給される遺族年金は月6万円。
「母の持ち家の都市計画税や不動産税が年約60万円。他人に貸していたが、転居して家賃収入が途絶え、全額を被ることになった。もともと一家が同居する予定だったんだけど……。最悪、売り払おうと思ってる」
すでに、預貯金は底をついている。
「ゼロだよ。どうしよう(苦笑)」
次男である剣持さんが母親の面倒を見ることになった契機は、10年前に実兄を事故で亡くしたこと。母親の様子が変わったのもそのときからという。
「酔って階段から転げ落ちて、頭蓋骨を骨折。手術後はしばらく意識があったが、やはり脳を空気にさらすのはよくないようだ。最後はオレが看取った。あれですべてが狂った。兄貴はいいときに死んだよ」
こんなはずじゃなかった……と言いたいはずの剣持さんの口調はしかし、終始穏やかなままだ。
定年まであと1年。「退職金は約2000万円くらいを期待してるけど、業績次第だし……」。次男が現役合格したら、入学式はその支給前。入学金の支払いが今から心配だという。
※すべて雑誌掲載当時
(初沢亜利=撮影 藤川 太=モデル家計簿作成・解説)