インフルエンザの流行が心配される季節がやってきた。昨年以降、世界的に流行した豚型のインフルエンザは幸いにも毒性が弱かった。しかし感染者の致死率60%以上という毒性の強い鳥インフルエンザのパンデミック(爆発的感染)がもし起きたら、日本国内だけで最大64万人が死亡すると予測されている。

だが、パンデミックの影に怯える必要はなくなるかもしれない。去る10月22日、インフルエンザウイルスに関する画期的な研究発表が日本感染症学会で行われた。発表によると、鳥インフルエンザなどのインフルエンザウイルスをセンダンという植物の抽出液に浸したところ、すべてのウイルスが死滅したことが電子顕微鏡で確認された。

表面がスパイクで覆われたウイルス粒子(写真上)。スパイクでヒトの細胞に取り付いたり、細胞の中から出たりする。センダン抽出液を加えるとスパイクが消え、ウイルス粒子の一部が壊れた(同下)。ちなみに、「栴檀は双葉より芳し」の諺で知られるのは白檀のことで、ここでのセンダンとは別物。
表面がスパイクで覆われたウイルス粒子(写真上)。スパイクでヒトの細胞に取り付いたり、細胞の中から出たりする。センダン抽出液を加えるとスパイクが消え、ウイルス粒子の一部が壊れた(同下)。ちなみに、「栴檀は双葉より芳し」の諺で知られるのは白檀のことで、ここでのセンダンとは別物。

またこの抽出液を希釈し、インフルエンザウイルスが空中浮遊する密閉された実験室内で噴霧してもウイルスは死滅した。センダン抽出液は人体に無害で、人がいる部屋で噴霧しても安全でウイルスのみを殺傷できる。抽出液を使えば、室内に人がいてもウイルスに汚染された部屋や電車内の空間消毒が可能になり、ウイルス感染予防に大きな効果が期待できるという。

この注目すべき発表を行ったのは、沖縄県を拠点とする生物資源研究所(根路銘(ねろめ)国昭所長)と日本大学医学部、中部大学生命健康科学部、北里生命科学研究所の9人の研究者。その中心的存在である根路銘氏は、厚生労働省の国立感染症研究所呼吸器ウイルス研究室長やWHOインフルエンザ・呼吸器ウイルスセンター長などを歴任した日本のインフルエンザウイルス研究の第一人者として知られる。

センダンは沖縄に多く自生している落葉高木。根路銘氏はセンダンのインフルエンザに対する抗ウイルス作用を調べたところ、大きな効果があることを発見。日本大学医学部の協力を得て、ウイルス死滅のメカニズムを電子顕微鏡で撮影した(写真)。写真上の丸い形をしているのがウイルス本体(ウイルス粒子と呼ぶ)で、表面には「スパイク」という無数のトゲのようなものが生えている。これにセンダン抽出液を加えると、トゲが消え、ウイルス粒子の一部が壊れる(同下)。これはウイルスが死滅したことを示す。