戦後の「自由な時代」に生まれ、父親から「由人」と名づけられた仙谷由人官房長官が、得意の自由闊達な弁舌でマスコミと火花を散らしている。
11月9日、米国務副長官との非公式会談後、官邸内で記者団の取材を受けた仙谷氏は苛立って「もうオレの家に夜回りに来るな!」と言い放った。仙谷氏に禁じられて夜回り取材が中止されたわけではないが、日頃のイライラが爆発したということだろう。
いまや仙谷氏が記者の質問に逆ギレすることは珍しくない。中国人船長の釈放やロシア大統領の北方領土訪問に対する“弱腰外交”や海上保安庁のビデオ流出といった問題が次々に起き、その対応をめぐり野党やマスコミからの攻撃の矢面に立たされている仙谷氏は、いわばストレスの塊だ。苛立ちもわかる。もっとも仙谷氏が自らの言動で周囲の反感を助長している面もある。「報道を引いて質問するのは拙劣」と野党議員を侮辱する発言で謝罪に追い込まれたのが典型的だが、その謝罪会見での対応もいただけなかった。仙谷氏は記者団の5つの質問すべてに「ノーコメント」を連発するという不遜な態度でマスコミの反感を煽った。
とりわけ仙谷氏が天敵視しているのが保守系の産経新聞。同紙は仙谷氏を事実上の内閣の最高実力者ととらえ「仙谷氏“陰の総理”しらける独演」と批判の矛先を向け、尖閣諸島問題で船長を釈放したときは「仙谷氏主導」「腰抜け外交」と断罪。その後も「仙谷『健忘』長官」「『柳腰外交』よれよれ」といった具合に追撃の手を緩めない。
よほど腹に据えかねたのか、仙谷氏は11月6日、APEC会場視察に訪れた際、同行した産経記者の頬を衆人環視の中、広島の「熊野筆」でナデナデ。「奥さんに買ってプレゼントしたら『罪悪』すべてを流してくれるよ」。「どんな罪悪?」と訪ねた記者に「あなたは存在自体が『罪悪』なんだよ」と発言した。
また11月9日、日本共産党の志位和夫委員長らがロシア大統領の北方領土訪問をめぐり申し入れをした際も、記者団の中の産経記者に「おたくは共産党と手を結ぶのじゃないのか」と逆質問。「(産経新聞元社長の)水野(故・成夫氏)は元共産党じゃないか」と“口撃”したという。
「自由な言論」は歓迎だが、「ノーコメント」連発や品のない発言は一国の官房長官として首を傾げたくなる。