イギリスは欧州辺境の孤立した小国になる
今年2月にはEUと移民制限政策で合意した。EU域内からの移民流入を抑えるため、移民に対する社会福祉の制限を求めたイギリスに対し、EUは移民流入が「例外的」に急増した場合の緊急措置として認めた。母国に居住する子供への児童手当について、イギリスが求めた給付停止は退けられたが、手当の水準を母国の生活水準に合わせる措置は認められた。
これらの成果をもとに、キャメロン首相は6月23日の国民投票を実施することを表明。とはいえ、公約の実施を迫られたものであり、「危険な賭け」と批判も根強かった。
投票権を有するのは18歳以上のイギリス国民。高年齢層が離脱派、若者が残留派と色分けされ、理屈を感情が上回る結果となった。さらに、パナマ文書問題がキャメロン首相の指導力を揺るがせ、離脱派のエスタブリッシュメントに対する不満を増幅した面も見逃せない。
イギリスの正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」。イングランドとウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの非独立国で構成されるが、今回の国民投票によって分裂につながる可能性が出てきた。残留派が過半数を占めたスコットランド(62%)、北アイルランド(55.8%)はEU残留に向けて動き始めている。スコットランドは北海油田の権益を有しており、経済的にはむしろ恵まれた立場にある。一方、北アイルランドはアイルランド統一も視野に入れたスタンスを見せ始めている。
フランスのマクロン経済相は「英国は欧州辺境の孤立した小国になる」と極端な表現で警告する。
国家の分裂となると、イギリスの国力、経済力、発言力が一気に低下する。国民投票で「負けることはないだろう」というキャメロン首相の軽率な判断がこの深刻な事態を引き起こした。この結果責任は大きい。