しかし、かねて日本では調整型の人材が多く、リーダーシップを発揮できないといわれてきた。どれだけすばらしい組織図があったとしても、リーダー不在であれば意味がない。企業はリーダー研修に力を入れ、自主的にセミナーに通うビジネスマンも少なくない。それでも今なおリーダーがいないとされている。いったいリーダーとは、リーダーシップとは何なのか。この苦しい時代において、リーダーには何が求められているのだろうか。

リーダーとは何か。あるいは、リーダーシップをいつ発揮すればいいのか。日本でも誤解されていると思うが、リーダーは、何もチームの先頭に立って、メンバーを相手に強権を発動することを意味しない。リーダーはチームメンバーの奉仕者であり、個々のメンバーの能力を遺憾なく発揮させ、最高のパフォーマンスを得るためにメンバーに尽くす存在なのだ。そのために熱意とコミュニケーションが必要なのだ。それはどんな状況でも普遍の鉄則である。

リーダーシップを発揮する機会は、誰にでも、そして毎日あるのだ。そもそも強い信念を持たないビジネスマンにリーダーシップは宿らない。そして自分の信念をエネルギーや情熱を持って相手に伝えることこそがリーダーシップだ。熱意を伝えるのにスピーチや身振り手振りの得手不得手は関係ない。

ヒューレット・パッカード創業者の2人は異なるタイプだ。右はウィリアム・ヒューレット氏、左はデビッド・パッカード氏。(写真=AFLO)

ヒューレット・パッカード(HP)はウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカードの2人によって創業された。デビッドは身長2メートルの偉丈夫で、服装もエレガントだから見栄えする。一方のウィリアムはデビッドに比べ頭ひとつ背が低く、そして声が小さい。少し離れたところでは声も届かないぐらいだった。そんなウィリアムだが、デビッドに負けず劣らず情熱的であり、物静かであっても、彼の熱意は従業員を動かした。彼ら2人はどちらかが営業マンで、どちらかがエンジニアというのではなく、彼ら2人ともがどちらも一流であったために、HP社にある社風を築いた。ある調査では、20人の重役のうち、18人がHP社の成功は人間尊重哲学という経営方針にあると答えた。この経営方針についてウィリアムはこう答えている。「人間は、男女を問わず誰でも、いい仕事、創造的な仕事をしたいと思っている。それにふさわしい環境に置かれれば誰でもそうする、というのが私の信念です」。