安全保障面のみならず、トランプ氏は日米関係に変革を求めている。たとえば、日本が輸入牛肉にかけている関税だ。「日本が牛肉に38%の関税をかけたいなら、われわれは日本の自動車に38%の関税をかける」と主張し、米国に輸入している自動車に高関税をかける対抗措置をぶちあげた。安倍首相が成長戦略の柱に据えている環太平洋経済連携協定(TPP)に関しては「馬鹿げた協定だ」としており、ジャパン・バッシングはとまらない。

トランプ氏は、安倍首相に関して「頭が切れる人物だ」とほとんど嫌味に近い発言もあり、日本政府内は「状況次第で発言内容が変わる。現実を知らないほど怖いものはない」(政務三役の一人)との受け止め方が大勢だ。

在日米軍の撤退と同様に、トランプ氏は韓国に展開する在韓米軍の駐留経費の負担増も韓国側に要求している。この点について、ブレーンの一人は聯合ニュースに「トランプ氏は同盟国である韓国を放棄しない」と語り、「韓国側と現実的な協議」を行う意向を示したという。だが、アジア太平洋地域の平和と安定に寄与してきた日本と韓国の駐留米軍を再構築する方針はトランプ政権誕生後も変化しないとされ、現職のオバマ米大統領は「無知は美徳ではない」とトランプ批判を繰り返す。

では、日本政府がヒラリー氏の勝利を熱望しているかといえば、そうでもない。理由は夫であるビル・クリントン元大統領の現職時代に「ジャパン・パッシング」を経験したからだ。クリントン大統領は1998年に中国を9日間訪問した。だが、同盟国である日本には立ち寄らず、その後も無関心ぶりに日本政府は右往左往させられた苦い経験がある。

トランプ氏は中国が米国の雇用を奪っていると批判しているが、ヒラリー氏は「夫と同じように中国寄りになる」(自民党幹部)とみられ、米中による「G2」で世界を牽引する戦略を打ち出す可能性もある。世界で2番目の経済大国である中国を最重視し、日本の相対的な地位が下がれば外交・安保環境は一変する。トランプ氏か、それともヒラリー氏か。安倍首相の側近は「『ジャパン・バッシング』と『ジャパン・パッシング』の地獄の二者択一だな」と困惑を隠せないでいる。

(時事通信フォト=写真)
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