「大人力」シリーズの著書で知られるコラムニストの石原壮一郎さんは、大学生の娘を持つ。子どもが口をきいてくれない、といった事態はこれまでなかったが、「仕事で帰宅が遅く、会う機会が少なかっただけかもしれません(苦笑)」。
必死に家族を養う父親をシカトするとは何たる無礼者、と叱り飛ばしたいところだが、かえって相手の態度は硬化するに違いない。
「思春期ですから、友人関係や部活などでむしゃくしゃすることや劣等感を抱くこともあるでしょう。イライラしたり自信をなくしたりして、親に対しては冷たく当たる。親を嫌って安心するような十代特有の心理は僕にも心当たりがあります。だから、口をきかないことを怒らずに飄々と自然体の父親として遠くから見守る姿勢でいるのがいいでしょうね」(石原さん)
逆効果なのは、関係を修復させたい一心でご機嫌をとること。ナメられたり気持ち悪がられたりするのがオチだ。むしろ、たとえ子どもから返事がなくても、「魚の食べ方うまくなったな」「近所の人がおまえがきちんと挨拶するって褒めていたぞ」などと声をかける。親はちゃんと見ているよ、というサインを送れば、いずれ打ち解けムードが訪れるかもしれない。
一方、作家の内藤みかさんは高校時代に「何となく父と話さなくなった」そうだ。でも、父親は作戦を立ててよく声をかけてきたという。
「ボーナスが入ったから何か買ってやろうか?」「実は会社の部下の女性が退社するから何かプレゼントしたいんだけど、若い女性の好みや流行がわからないから一緒に選んでくれないか?」……。
「父は買い物という口実で、父娘の時間をつくったんですね。私は、父の買い物の手助けをしたお駄賃として、それほど値の張らないブランドもののハンカチや靴下などを買ってもらいました。ちょっとした“援交”気分ですね(笑)。自宅とデパートを往復するとき、『将来はどうするんだ?』などと聞かれてちょっぴり鬱陶しかったけれど、そこは我慢して。この半期に一度の父との買い物は恒例行事になって、私も嫌そうな顔をしながらも内心どこかで心待ちにしていたところがありました」(内藤さん)