格付会社は純粋な民間企業である。ムーディーズはニューヨーク証券取引所の上場企業で、S&Pは米国出版大手マグロウヒル社の傘下にある。しかし、「格付機関」という公的色彩があるような呼び方をされることがある。これは、「日米円ドル委員会」で日本側の交渉官を務めた大場智満大蔵省財務官(当時)がcredit rating agencyという英語を最初に「格付機関」と訳したためかもしれないと、大場氏自身が雑誌のインタビューで語っている。
格付けには様々な種類がある。1年以下(格付会社によっては、1年“未満”)の債務の信用度を示す「短期格付け」、それよりも長い債務の信用度を示す「長期格付け」、金融機関の預金払い戻し能力を示す「預金債務格付け」、保険会社の保険金支払い能力を示す「保険金支払能力格付け」、サービサー(債権回収業者)の業務遂行能力を示す「サービサー格付け」などだ。したがって「格付け」というときは、どういう種類の格付けを意味しているかを理解することが前提になるが、企業や国の「格付け」というときは、通常、「長期格付け」を意味している。
格付けはどういうふうに決められるのだろうか? 社債の格付けの例をとると、新規の格付けの依頼があったり、既存の格付けを変更する必要が生じたときは、担当アナリストが「レコメンデーション」と呼ばれるリスク分析レポート(英文10ページ程度)を作成する。リスク分析の手法は、日本の銀行や事業会社において取引先のリスクを分析するときに行われている手法と基本的には同じである。マクロ経済分析に始まり、業界環境、その会社の製品の強み、業績動向、財務分析、経営能力、資産負債状況、その他債務返済能力に影響を与える要因を網羅的に分析する。
銀行の審査部門と比較した場合、格付会社のほうがアナリストごとの担当社数が少なく、普段から綿密に情報を取っているという強みがあるが、他方、銀行のように企業の財務情報や保有資産の情報を当然のこととして提出させたり、企業に乗り込んで行って帳簿類を調べたりできないという弱みがある。
格付けは、担当アナリストの「レコメンデーション」をベースに社内の格付委員会で決定される。日本企業の格付けの場合、(米系格付会社であれば)その産業を見ているニューヨーク本社の幹部が格付委員会の議長を務め、本社のアナリストや東京事務所のアナリストなど10人程度が出席し、議論を重ねた上で1人1票で投票し、決定する。格付委員会は通常、電話会議で行われ、時差の関係上、日本時間の朝方か夜に行われるケースが多い。