CDOに関しては格付会社の側にも問題があった。
2000年にムーディーズが上場した頃から、格付会社の収益追求に拍車がかかり、格付けの中立性や信頼性に対する配慮が疎かになった。社債の格付けが1件当たり500万円程度の固定料金制なのに対し、CDOのような証券化商品の格付けは、発行額に対して0.5ベーシスポイント(0.005パーセント)から10ベーシスポイント(0.1パーセント)の手数料を得ることができる。仮に発行額が5千億円で料率が3ベーシスポイントなら1億5千万円になる。ムーディーズが出している資料にも、「発行体の大部分は、ムーディーズに対して1500ドルから250万ドルの手数料を支払うことに同意している」と小さな文字で但し書きがしてある。しかも、企業の実需にもとづく社債発行は一社当たり精々年に1、2回だが、証券化商品は投資家さえ見つければ何十件でも作り出すことができ、「やればやるほど儲かった」(当時の関係者)のである。
ムーディーズの格付け収入に占める証券化商品の比率は、1998年には32パーセント(1億4300万ドル)だったが、2007年には48パーセント(8億8600万ドル)に増加している。格付会社各社は、証券化商品格付け部門の人員を大幅に増やし、アレンジャー(投資銀行)や発行体からビジネスを獲得するため、競って高格付けを出すようになり、格付けの質に対する配慮が徐々に後退して行った。米国の大手メディアは、格付けの正確さより利益を優先する体質に疑問を呈した社員をムーディーズが退職に追い込んだり、証券化商品に高い格付けを与えた同社の幹部が特進したという話を報じている。
法律と市場の両面からメスが……
格付会社の最大の問題点は、顧客である発行体から手数料の支払いを受けるビジネスモデルにある。発行体の側では、格付けが高ければ高いほど、債券の発行コストが安く済むので、高い格付けを出してくれる格付会社を使う。そのため、格付会社は、高い格付けと引き換えにビジネスを獲得しようという利益相反に陥る。
現在、米国で審議されている金融規制改革法案は、こうした利益相反を防ぐため、SEC(証券取引委員会)の中に格付会社を監督・規制する組織を設け、そこが、どの格付会社がどの証券化商品の格付けをやるかを決めるようにするという大胆なものである。
また投資家が格付会社を訴えやすくなる可能性もある。6月の終わりにS&Pは、「法案が成立すると、格付会社の利益率が低下し、訴訟関連コストが増加する可能性がある」として、同社がムーディーズに対して付与している短期債務格付け(現在A1)を引き下げ方向で見直すと発表した。
一方、金融機関や機関投資家などの市場参加者は、リーマン・ブラザーズの破綻以来、企業などの信用リスクを見る指標として、格付けに代えて、CDSを日常的に使うようになった。リーマンが破綻するまでムーディーズやS&Pが同社にシングルAの格付けを与えていたため、市場参加者たちは、格付けのあてにならなさを再認識したからだ。金融機関などは、CDSのスプレッド(利回り)が一定の水準を超えたときはその企業(あるいは国)との取引を停止するなどの内部基準を設け、日常的にブルームバーグの画面などで監視している。
2001年にエンロンが破綻したときも、ムーディーズやS&Pは破綻の数日前まで同社に投資適格の格付けを与え、議会や世論から厳しい批判を浴びた。しかし格付け制度に対する根本的な改善はなされず、再び、世界的な金融危機が引き起こされたわけである。さすがに今回は、法律と市場の両面からメスが入りつつあるというのが現状だ。