ユーロ圏の危機で格付会社が注目を浴びている。去る4月、国債の償還資金調達の目処が立たなくなったギリシャ政府に対し、EUとIMF(国際通貨基金)が総額で450億ユーロに上る金融支援を決めた。ところが、その4日後に米系格付会社のスタンダード&プアーズ(S&P)がギリシャ国債の格付けを、投資適格のBBB+(トリプルBプラス)から、投機的等級(投資不適格)のBB+(ダブルBプラス)に格下げしたため、危機が一気に拡大し、通貨ユーロが売り浴びせられた。さらにS&Pがスペインとポルトガルも格下げしたため、危機の拡大と深刻化が懸念される事態になった。

不況に陥ったギリシャ政府に抗議活動をする労働者たち。(写真=PANA)

不況に陥ったギリシャ政府に抗議活動をする労働者たち。(写真=PANA)

これほどの影響力を持つ格付けとは何なのか? かつてムーディーズ・ジャパンの代表理事、角谷優氏は、ある雑誌のインタビューで「格付けとは、科学的なものでもなければ、公明正大なものでもありません。これはあくまで格付機関の意見、つまりアナリストの意見でしかないのです」と述べている。この言葉は格付けの本質を見事にいい表している。ムーディーズやS&Pは過去何度となく、彼らの間違った格付けを信じて損をした投資家から訴えられてきたが、訴訟にはことごとく勝っている。格付けは単なる意見の表明にすぎず、たとえそれが間違っていても、合衆国憲法修正第一条で保障された言論の自由の範囲内であるというのが判決理由である。

間違っていても責任を問われることのない単なる意見の表明にすぎない格付けが、なぜこれほどの影響力を持っているのか? その最大の理由は、機関投資家や金融機関の多くが格付けを投融資の基準に用いているからだ。

特に、投資適格(トリプルB以上)と投機的等級(投資不適格)のどちらに格付けされているかを投資判断の基準にしている投資家が多く、ごく大雑把にいって、投機的等級に落ちると、資金調達源の8割程度が利用できなくなる。ギリシャの危機が一挙に深刻化したのも、これが原因である。日本でも1997年から1998年にかけて、山一証券、北海道拓殖銀行、長銀、日債銀などが投機的等級に格下げされて市場から資金が取れなくなって破綻した。

米国で長い歴史を持つ格付会社が日本に上陸したのは1980年代半ばである。きっかけは、日本の国際収支の黒字拡大に苛立ちを募らせた米国が農産物、流通、金融などの分野で日本の市場開放を求め、1983年に金融分野の問題を協議するための「日米円ドル委員会」が設置されたことだ。それまで日本では、デフォルト(債務不履行)する可能性がある企業には債券を発行させないという大蔵省の方針にもとづき、有力金融機関を中心とする「起債会」が発行の諾否や時期を決めていた。これに対して米国側は、米系投資銀行の引受け業務を拡大するため、格付けによる柔軟な発行制度への変換を求め、日本側が受け入れたのである。

(写真=PANA)