富裕層中心に圧倒的人気を誇るリッツ・カールトン・ホテル。日本の経営者にも評価が高いリッツだが、バリでオーナーと裁判になり、巨額懲罰金を支払ったという衝撃の事実はあまり知られていない。企業とブランドのあり方を考えるうえで教訓に富むこの騒動をレポートする。
「陪審、バリ事件でリッツに有罪評決を下す」
2008年2月1日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に、目を疑うような記事が掲載された。
「忠実義務」という、企業の“integrity”(誠実性)が問われた裁判で、リッツ・カールトンが懲罰金10億円もの支払いを命じられたのだ。
リッツ・カールトンに対し、筆者は少なくとも「信頼の絆を大切にし、約束を守る」というブランドイメージを抱いている。そのリッツ・カールトンが、なぜこのような事態を招いてしまったのか。
原告のインドネシア企業、カラン・マス・セジャトラ社オーナー、ルディ・スリアワン氏への5時間にわたるインタビューをふまえ、アメリカの法廷で争われたリッツ・カールトン・バリをめぐる裁判の一部始終をここに記す。
「我々は何ら契約に違反していない」
ザ・リッツ・カールトン ホテル カンパニーは世界に70以上のホテルを展開する企業だ。日本では大阪と東京に名を冠したホテルがある。
創業以来、世界の王室や政財界VIPをはじめ数多の顧客に支持される理由は、ロケーション、施設などのハード面に加え、「お客様にノーと言わない」「お客様が言葉にしないニーズに応える」といったホスピタリティの高いサービスにある。
これらのサービスは「リッツ・カールトン・ミスティーク(神秘)」と呼ばれ、ブランド価値を引き上げていった。リッツ・カールトンのクレドとモットー“We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen”(紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です)は、従業員の接客基本理念。ちなみにクレドとはラテン語で「信仰宣言」の意味で、企業においては理念や社是とされる。リッツのクレドは日本企業でも経営の参考にされ、トヨタ自動車が日本で高級車ブランド、レクサスを展開する際、リッツ・カールトン大阪で研修を受け、サービスを学んだのは有名な話である。