「左遷」とは何か
「左遷」という言葉は、『日本国語大辞典』(小学館)によれば、「(昔、中国で右を尊び左を卑しんだところから)朝廷の内官から外官にさげること。また、一般に、それまでよりも低い官職、地位に落とすこと。中央から地方に移すこと。左降。さすらい」という意味だとされている。元々は漢語であったものが、日本に取り入れられて一般の言葉になったものだ。
実際の左遷の用例はどうなっているのか。
まず日本経済新聞の5年間の朝刊、夕刊に掲載された記事を検索すると、「左遷」という言葉は39件しかなかった。「昇進」に比べると20分の1だ。一方で、ブログに使用されている「左遷」の文言を見ると、全く違う景色が見えてくる。あるブログの検索サイトでは、この3月1カ月だけで、900件を超える用例がある。
もちろん同じ条件での比較にならないことは承知しているが、けた違い以上の格差がある。ビジネスの現場で考えれば、人事部内で左遷という言葉を聞いたことはないが、定期異動が発表されれば、社員間では「○○さんは左遷だそうだ」という発言が飛び交う。「こんな成績だと、来年は左遷になるぞ」と口癖のように言い放つ営業部の上司もいる。
左遷は、組織からではなく個人から生まれていると言い切っても良いくらいだ。それでは一体どうしてそうなっているのか?
私は生命保険会社の本店の人事部に在籍した他にも、専門職の人事課長や子会社の人事担当部長も経験した。転勤があって役員を目指すことができる総合職、転勤のない事務職である一般職、中途入社の専門職の各々が描く会社の姿は、著しく異なっていた。人事面談を繰り返す中で分かってきたのだ。もちろん子会社の社員が描く親会社の姿はまた違う。
各自が、それぞれの立場や職制、労働条件、または自分の生活との関係で会社を把握している。本社ビルなどがあるから、実体のある唯一の会社が存在していると思いがちだ。しかし頭の中で自分なりの会社像を描いているにすぎない。普段は、総合職同士や一般職同士で仕事をしているのでそれほど意識しないだけである。
かりに総合職から一般職に職制を変更すれば、かなり会社の景色は変わってくるはずである。私自身も、支社長や担当部長職から、いきなり平社員に降格になった時には、会社の姿は意外なほど違って見えた。