ラブレター、個人レッスンや遠距離の訪問……。まるで恋愛ゲームのようなことが、いま昭和世代の男性管理職に求められている。しかも相手は女性部下。女性社員にやる気を出させるミッションが、男性幹部の肩に大きくのしかかっている。
「活躍を見ているよ」部下への感謝の直筆レター
「おまえの仕事もよくなったな!」。そんな一言が男性部下には言えるのに、女性部下だと「ありがとう」で終わる。「自分の仕事が評価されているのか自信がない」というのも、女性の向上心を妨げているようだ。
住友化学では、女性管理職を対象とした「女性リーダー創生塾」を開催。その後半のセッションでは、上司からの手紙を受講者にサプライズで渡した。同社人材開発部長の平山知行氏は「手紙は日頃の仕事への感謝に加え、部下のいい点を書いてほしい、と依頼しました。手紙をもらった女性のほとんどが『自分の努力を見ていてくれた』と驚き、感激していました。上司と一緒に気づきを得て共有することが、女性には本当に大事だと思う」と指摘する。
同社の課長相当職の女性比率は3.7%。これを、20年までに少なくとも10%以上にするチャレンジングな目標を掲げる。
ほかにも役員と女性管理職の1対1のメンター制度もある。13年度にトライアルを実施し、翌年度から選抜された8組で本格的にスタートした。期間は原則1年。
直属ではない役員がメンターを担当し、年間4~6回、面談する。メンターとなった役員は最初戸惑いを見せる。同社は中期経営計画に企業風土改革として「ダイバーシティの尊重」を掲げている。
片道4時間メンティ指導に幹部自ら足を運ぶ
経験を積んだ男性管理職からの言葉が、女性部下の背中を大きく押すこともある。メンターの一人、上田博常務執行役員も東京の本社から、愛媛の事業所まで担当の女性管理職の元に片道4時間かけて通った。計4回の面談を通じて気づかされたのは自分がこれまで男性主体の考え方で仕事をしてきたということだった。
「チームワークという言葉から自分が考えていたのは、男性だけが集まってサッカーをしているイメージ。実は、過去の部下にも優秀な女性だったが家庭に入った人が何人もいた。非常に惜しいと思いましたが、女性はほかにも人生があると考えられていた時代。しかし、面談を通じて優秀な女性が力を発揮することが、会社の成長に貢献することを再認識した」
メンターを通して大きく変わるのは、女性よりも男性役員の意識。どこの会社にも「女性にリーダーを任せられない」と言う男性幹部も少なくないが、上田氏は「仕事の能力は男女関係ない。メンターを経験すれば、女性の能力に気づくと思う」と勧める。
もちろん女性側にも好影響を与えている。東京本社CSR推進室の松尾美由紀部長補佐は、入社したときは事務職採用で、管理職につくなんて想像もできなかったと話す。
「途中で会社の制度が変わり、事務職から総合職へ、そして課長になりましたが、戸惑いもあった。管理職とは、リーダーシップを発揮して部下をぐいぐい引っ張るイメージだったので、私に務まるのか自信が持てなかった。でも、メンターの役員から『管理職にもそれぞれの役割やタイプがある。自分の強みを生かして自信を持ってやればよい』と言われ、安心しました」