現役のリーダーはチャーチルをどう描いたか
本書はイギリスでは2014年に出版されたが、そのような現役の政治指導者が、英国史上最高のリーダーとされたチャーチルの人生について、元ジャーナリストとしての筆力を活かして執筆したことに意義ある。歴史学者による数多あるチャーチル論とは異なる独自の視点で、現役のリーダーがチャーチルのどのような点に魅力を感じているのか、読み解けるのが興味深い。
私が本書を通じて感じた、チャーチルを名指導者たらしめた要素、すなわち「チャーチル・ファクター」を挙げるとしたら、次のようになる。
戦争を自ら何度も体験し、宰相に就任後も現場に飛び出して指揮をしていたこと。自分は天に護られる選ばれし者であり、銃弾は当たらないと信じて無謀に飛び込んでいったこと。圧倒的な情報量を元に、世界がどのように変わっていくか、自分の頭で考え抜いた未来像をクリアに描き、それを実現するために粘り強く行動したこと。何度も大きな失敗をして失脚したものの、挫折に押しつぶされずに何度も立ち上がっていたこと。言葉が人々を奮い立たせることを大切にし、何度も何度もスピーチ原稿を推敲していたこと。
ボリス・ジョンソンは、将来、首相になっている自分を重ね合わせながら本書を書いていたに違いない。前述のように、彼はEU脱退、Brexitを推進する立場を明確にしたが、彼が尊敬してやまないチャーチルだったらどういう立場をとっただろうか。ボリスのこの点に関する記述は極めて慎重で、どちらの立場でも取りうる書き方にとどめている。
「たしかに彼は統一ヨーロッパを望んだ。イギリスには、これほどの悲惨を味わった大陸に幸福な連合をもたらすことを助ける重要な役割があると信じていた。しかしその役割とは、連合の契約当事者というより、スポンサー、つまり立会人になることだった」
英国の将来を占う上でも、本書は未来の宰相候補による「リーダー論」として、貴重な一冊となるだろう。
ライフネット生命社長。著書に『入社一年目の教科書』など