薄利多売地獄だが販売台数は減っていない

チームホンダをスローガンとする八郷社長だが、そのような実情が解消されないまま結束を呼びかけても効果が上がりにくいことは想像に難くない。

人事に関する社長会見の場でも、メディアからは近年では珍しいくらい厳しい質問が飛んだ。

「人件費を増やさないまま定年を65歳まで引き上げるということは、働き方を根本的に変えるということではないのか」
「本田技術研究所について、技術者が自由にモノづくり、技術開発ができるような場にするということだが、研究開発部門を別会社にしたのはもともとそれが目的だったのではないのか」
「(2018年に北米シビックを日本に導入するという計画について)シビックは日本市場に合わなくなったから販売をやめた。それを再導入するということは、市場環境に何か変化があったのか、それともとりあえず手元にモデルがあるから売ってみようということか」
「チームホンダを強調しているが、それは危機感があるからか」

質疑は役員人事よりもホンダの現状をどう考え、どう変えていくつもりなのかということに集中した。社長以下、新体制の取締役や執行役員に求められるのは、自分をごまかさずに現実を直視し、経営陣の保身やしがらみにとらわれることなく必要な対策を強力に推進していくことだ。それができなければ、新体制の若さも何の役にも立たないし、どんな人材をボードメンバーにあてようがホンダは変わらない。

ホンダにとって救いなのは、薄利多売地獄に陥っているとはいえ、グローバルでみれば販売台数そのものは減っておらず、売上が立っていることだ。安いものを作ることこそがホンダの伝統という思い込みを捨て、先進国企業らしいクルマづくりを推進して付加価値を上げることができさえすれば、いつでも復活できるのだ。幾多の困難が伴うであろうその道を歩むことができるかどうか、わずか1年で大掛かりな人事に踏み切った第2次八郷政権の真価が問われる。

(宇佐美利明=撮影)
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