そう話す河嶋さんの営業は“付かず離れず”がモットーだ。住宅営業は1~2年がかりの長期戦。顧客に煙たがられないようにしながら、必要なときに声をかけてもらえるのが理想だ。それが受け答えにも表れる。

「たとえ私にとって定期的な家庭訪問であっても、『近くに寄ったついでに』といったように、お客さまに抵抗感を与えないよう心がけます」と河嶋さんはいう。

また、顧客が相見積もりを取っているとわかっても、自分からはなるべくクロージング(購買決定)を持ちかけない。

「他社が焦って契約を迫るようになるんですね。すると不安に感じたお客さまから、他社の見積もり内容について相談を持ちかけられることがあるのです。そうなれば、もうこっちのものですね。相手の手の内が見通せて、自社に有利に事を運べますから」

たとえば他社のプランを見て、「このままだと追加の料金が発生します。私なら、この設計を変更して予算内に収めます」と指摘。他社にさりげなくダメ出しして、自社をアピールするのだという。

機が熟したところで、顧客のほうから契約するように仕向けるという河嶋流の高等テクニックが、成約率の高さに結びついているようだ。

住宅営業で顧客がいくつかのライバル会社から相見積もりを取っているのは当たり前。しかし河嶋さんはその相見積もりの内容の相談を受けるくらいに、顧客との信頼関係を築いている。そしてライバル会社の手の内が明らかになったとき、逆転ホームランを放つのだ。

▼あえてクロージングは急かさない

相見積もりを出しているライバル会社の営業マンも契約が欲しい。そのライバル会社がクロージングを急かし、顧客の悩みに耳を貸せるようになったときこそチャンス到来である。

大和ハウス工業 みなとみらい展示場店長 河嶋祐太(かわしま・ゆうた)
1978年、神奈川県生まれ。2001年、東京理科大学卒業後、同社に入社。09年4月、みなとみらい展示場の店長に就任。
 
(南雲一男=撮影)
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