売り上げや利益を狙うと必ず失敗する

ISETAN MEN'S netの成功の理由として近藤氏は、「お客様にどうすることで楽しんでいただけるかのみを考えて取り組んでいる。売り上げや利益を上げようとすることが先に来ると必ず失敗する」と話す。

藤縄智春・ソルフレア代表取締役CEO

「おそらくディズニーランドへ行く人の多くは、数日前からわくわくした気持ちを抱いている。それと同じことを提供できれば、もっともっとお客様に楽しんでいただけるはずだし、そうでないと百貨店は生き残っていくことができないと思っている。いつでもどこでも情報を入手することができるのは現代ならではのこと。最新のテクノロジーを使い、伊勢丹メンズ館の価値を向上させることができるはずだと考えている」(近藤氏)

スタッフ全員の意識が変わったことも成功の理由の一つに挙げる。伊勢丹メンズ館には1000人近くのスタッフが働いているが、そのスタッフたちに館内でどんなことが行われているのかなどといった情報共有が行き渡っていたわけではない。それがISETAN MEN'S netを見ることによって、ビジュアル化された情報を得ることができるようになり、一体感が高まったのだ。

「ISETAN MEN'S netをリニューアルして1年経ち、スタッフたちからの認知度も上がって必要なツールだと思われるようになった。そのため、編集部のメンバーが店頭へ取材に行くと、とても好意的に迎えてくれる」(近藤氏)

現在では、編集部のスタッフが企画を持ち込まなくても、ショップ側から「こんなネタがあるから、ぜひ取り上げてほしい」といった依頼が入ってくるという。好循環が起きているのだ。

近藤氏は編集部のスタッフに対し、ISETAN MEN'S netの軸をブラさないことを徹底して話している。PVを上げることを目的にしてしまうと、伊勢丹メンズ館にそれほど興味がない人にまで手を広げる必要があるが、それは当初の目的と異なる。

「伊勢丹メンズ館のお客様とのつながりを強めたり、お客様の利便性を向上させたりするのが真の目的。そう考えるとやらなければならないことが見えてくるし、コンテンツの内容もそういうものに集約されていく」(近藤氏)

藤縄氏は近藤氏と違った視線から成功の要因を分析する。

「システムだけではうまくいかない。ISETAN MEN'S netのPV数が伸びているのは、専任チームをつくって、自分たちで日々、コンテンツを更新していることが成功の大きなポイントです。システムとツール、人材、これがすべて組み合わさって初めてO2Oが実現される。一番失敗しやすいのは、専任チームを持たず、1~2人のスタッフが仕事の片手間に行うケース。伊勢丹さんのように自前でしっかりとしたチームをつくるか、さもなければ100%当社に任せていただいた方が成功する確率はグンと高くなる」(藤縄氏)

今後、取り組んでみたいこととして近藤氏は次のように話す。

「伊勢丹メンズ館が行うEコマース(EC)として、店頭で行われているような体験がEC上でも感じられるような、おもてなしを同期化するようなことができればいい。そのためにまず、ISETAN MEN'S netの情報発信を双方向で行えるチャット機能を追加したり、お客様に商品のレビューをしていただいたりといったような拡充を行っていきたい。その先にはお客様の声をモノづくりに反映するといった商品化の過程まで見据えていきたい」

伊勢丹メンズ館には足を運ぶ人が増えているのは、専任スタッフによるオウンドメディアの運営と優れたシステムという両輪があって初めて実現できているのだ。同店の取り組みに興味を持ったら、まずはISETAN MEN'S netアプリをチェック!である。

(澁谷高晴=撮影 三越伊勢丹=写真提供)
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