「ニッチコア」の時代が来た!

私はこのパクチーの人気ぶりから2つのことを考えさせられました。1つは、「ニッチで偏愛されるものがウケる時代になった」ということです。マーケティング的にはすでによく言われていることではありますが、「マス」というものがなくなり、あらゆるジャンルで誰からも愛されるということが極めて難しくなりました。

こうした環境においては、「メジャーな顔をしたメッセージ性の弱いもの」よりも、「ニッチだけれどコアなもの」のほうが強い影響力を持つようになっています。往々にして、そんなニッチな存在に対してはアンチも多いものですが、それを偏愛する層が強力に支援したり、周囲に薦めたりすることで、ニッチだったはずのものが結果的にメジャーになるということが起こります。パクチーはそうしたケースの代表例と言えるでしょう。

しかし、パクチーブームに対しては、あくまで「食」という観点で取り上げたい切り口がもう1つあります。かつてある飲食店経営者が、「2010年代の日本における食のテーマは『豆とハーブとスパイス』だ」と言っていて、私は深く納得したことがあります。この「豆とハーブとスパイス」は世界に目を向けると非常に一般的な食材です。東南アジア、南アジア、中東、北アフリカ、南欧、中南米など各地の料理では、ごく日常的に用いられています。

ところが、日本においては状況がまったく異なります。大豆製品こそ日本食には欠かせませんが、豆料理となると途端にメジャーではなくなります。スパイスについては、カレー以外にイメージがわかないという人も多いことでしょう。ハーブも同様です。フランスやイタリアの料理で使ったり、あるいはハーブティとして味わったりするくらいでしか、用途が見えにくいものです。