今や世界最大のビール市場である中国に日本勢で最も早く参入したのがサントリーで、12年には中国2位の青島ビールと提携して合弁会社を設立、上海、江蘇エリアのビール事業を請け負った。だが目立った業績は残せず、昨年には合弁を解消。結局は中国に入り込むことを断念した。中国市場のスケールは確かに魅力的だが、華潤雪花、青島など現地の大手メーカーがM&Aを梃に巨大化し、さらにアンハイザー・ブッシュ・インベブ以下の欧米勢も本格参入して市場をガッチリ固めつつある。日本勢が入り込む余地はほとんどない。

同じことはビール消費を伸ばしている他の新興国にもいえる。たとえば、ロシアの若者はウオツカからビールにシフトしており、そこにはカールスバーグがガッチリ食い込んでいて、「バルチック」という現地ブランドが圧倒的な人気を得ている。ハイネケンにしても技術提携や資本提携で自社ブランドと現地ブランドのビールを世界中で売りまくっている。母国はいずれも小さい。ハイネケンはオランダ、カールスバーグにいたっては人口約600万人のデンマークだ。生き残るためには海外に打って出るしかないわけで、国内でパイを取り合っても商売が成り立つ日本のメーカーとは腰の入り方が違うのだ。

日本国内に追い詰められた食品メーカー

日本の食品会社で一番大きいのは味の素で、売上高は1兆円以上。創業間もない1910年に台湾に進出し、戦後も50年以上前からタイやフィリピンなどの新興国にいち早く進出してきた海外事業の売上高比率は今や5割を超えている。世界化の苦労をいろいろ重ねてきた味の素で売上高がようやく1兆円なのに、世界には10兆円規模の食品メーカーが沢山ある。世界最大の食品会社はネスレだが、これがアメリカではなく800万人の胃袋しかないスイスの企業というのがまた面白い。

昨年10月、ハウス食品が「カレーハウスCoCo壱番屋」を展開する壱番屋を株式公開買い付けで買収すると発表した。「CoCoイチ」は日本最大手のカレー専門店チェーンであり、海外にも積極的に店舗展開している。海外で日本式のカレーを広めて、そこからレトルトパウチの販売につなげるのがハウスの狙いだろう。この買収で海外事業強化の目途が立ったハウス食品で売上高は2000億円程度。そのハウスと国内で死闘を演じてきたエスビー食品はといえば、売上高1200億円で時価総額はたった330億円。これではハウスのような買収もできない。M&Aの唯一最大の武器は時価総額であり、これが使えなければ世界化は難しい。つまり日本国内に追い詰められてしまうのだ。エスビーはもともとスパイスの会社だが、この分野で世界的に強いのは米マコーミックだ。実は20年前、マコーミックはハウスと同じくらいの売り上げ規模だった。それが今や倍以上の差がついている。この20年、マコーミックが何をやっていたかといえば、ひたすら海外で同業者を買収してきた。買収に次ぐ買収で売上高5000億円。

しかも利益率は28%と高い。ハウスやエスビーの利益率は5%もない。国内でミクロの戦いをしているときは巨大流通企業に買い叩かれる。利益率5%しか出ないが、それでも生き残ることはできる。しかし、海外に出ていくなら利益率が20%以上なければ、資本市場から資金を調達できないので買収を繰り返す力は出てこない。