相続人が配偶者なら、一般家庭は影響なし
こうした変更をもって、メディアは「大増税」を煽っている。だからといって、誰もが相続税対策をしなければならないわけではない。相続税には基礎控除のほかに、種々の税額軽減措置もあるからだ。まず、長年連れ添った配偶者には、1億6000万円まで(または相続する取得価格が法定相続分以下)なら、税額が丸ごと控除される「配偶者の税額軽減」がある。そのため、夫の遺産を一定額まで妻が受け継ぐことで、純資産が2億円程度までであれば、まず相続税は発生しない。
また、この改正に合わせて、「小規模宅地等の特例」の適用も拡大された。この特例は夫が亡くなっても、相続税の支払いのために同居している妻や子どもが自宅を売らなくてもすむように配慮したもの。一定の居住用の宅地や事業に使っていた土地は、相続時の評価額を8割減にできる。
この改正で、対象面積の上限が240平方メートルから330平方メートルまで広がった。都心部の土地は評価額が高く相続税の負担が高額になると言われるが、都心で敷地が330平方メートルを超える戸建てはレアケース。自宅敷地の評価額は思いのほか低くてすむのだ。
小規模宅地等の特例を利用できるのは、原則的に亡くなった人と同居している親族のみだ。しかし、「家なき子特例」といって、相続開始の3年前までに本人(またはその配偶者)の持ち家に住んだことがなければ、同居していた親族がいない場合に、相続税の申告期限までに保有を継続することを条件に、特例を適用できることも覚えておきたい。
これらの特例を使えば、実際に課税対象となるのは、変わらずに一握りの人々だ。
国税庁の「平成25年分の相続税の申告の状況について」によると、2013年に相続税を納税したのは5万4421人。死亡者数は126万8436人なので、全体の4.3%に相続税が発生したことになる。
この改正で、課税対象者は8万人を超えることが見込まれている。たしかに、納税者は「1.5倍」にはなるが、もともとの対象者が少ないので、たとえ増えても全体の6%程度。残り94%の人は、相変わらず相続税とは無縁なのだ。
税理士、中小企業診断士。國學院大學大学院博士前期課程修了後、会計士事務所勤務などを経て、吉澤税務会計事務所代表。著書に『2時間で丸わかり 不動産の税金の基本を学ぶ』『ケチな社長はなぜお金を残せないのか?』。