給与明細、よく見ると以前より引かれている!
ここ数年、打ち出される税制改正は「法人は減税、個人は増税」という姿勢が鮮明だ。背景にあるのは安倍政権が推し進める経済政策、アベノミクスだ。デフレ脱却・経済再生を確実なものにするために、国は企業の収益力を高めて従業員の賃上げにつなげる政策を掲げている。そのため、税制でも法人税の減税を実行。外形標準課税と合わせて、国と地方の実効税率を2015年度の32.11%から、16年度は31.33%、数年後には20%台まで引き下げることを目指している。
一方で、個人への締め付けは年々強まっている。まず、所得税は税率構造が変更され、住民税と合わせた最高税率は15年に50%から55%になった。また、サラリーマンが収入から差し引くことのできる給与所得控除も縮小されている。15年、年収1500万円超の人の上限額は245万円だったが、16年からは1200万円超の人は230万円に、17年からは1000万円超の人は220万円と頭打ちになる。
相続税も最高税率が50%から55%に引き上げられ、基礎控除額も大幅に縮小された。年金や健康保険などの社会保険料も年々増加しており、消費税増税も含めるとエンドユーザーである個人は負担増のオンパレードだ。
当然、増税による可処分所得の減少は、個人消費の落ち込みをもたらす。景気浮上への期待感によって支持を集めている現政権は、2%のインフレ率を約束しており、経済の活性化は政権運営の至上命題。消費の落ち込みはなんとしても避けたい。そこで、富裕層を中心とした個人への課税強化をする一方で、消費振興策も講じているのだ。
とくに消費税増税で影響を受けるのは、住宅の買い控え。戦後、日本では一貫して持ち家推進による住宅政策を景気浮揚のカンフル剤に使ってきた。今回も消費税の増税スケジュールに合わせて、住宅ローン減税や住宅取得資金贈与の優遇制度を拡充。同時に低所得層が住宅取得しやすいように最大30万円を給付する「すまい給付金」も創設した。
さらに15年度の税制改正では、高齢者から現役世代への資金移転を促すために、教育資金や子育て資金目的の贈与税の特例も拡大。貯蓄から投資に誘導するために14年に導入された少額投資の優遇制度「NISA(ニーサ)」の投資上限額も引き上げられる。
だが、これらの優遇制度は冷え込む消費を見据えた需要喚起策だ。増税によって可処分所得が減っていくことが懸念される今、安易に優遇措置に飛びつくのは考え物。優遇措置を使えば、税制上は有利に住宅購入や投資ができるが、需要喚起のカンフル剤が切れた後の市況は不透明だ。優遇措置を受けようと過大な住宅購入や投資をし、住宅ローンの返済に無理が生じたり、割に合わないリスクを抱えるといった本末転倒なことにならないよう、しっかりとトータルの損得を見極めたい。