100万部を超える大ベストセラー『知的生活の方法』で、読書の重要性を世に説いた著者。著者の存在がなければ、多くの国民は今ほどに本を読むことはなかったかもしれない。そんな著者が若かりし日々を振り返るとき、そこには必ず種々の本と、本に出合わせてくれた人々の存在があった。
決して裕福ではなかった少年時代から、親に買い与えられた雑誌を読みふけった。大学生になると、実家はさらに困窮し、授業料を頼ることはできない。特待生にならなければ即退学の危機である。
「そのためには絶対に1番にならないといけません。ほかの優秀な学生と競争して負けないためには、全教科100点を取るしかなかったのです」
わからないことがあれば本を読み、教員のもとに足繁く通って質問を繰り返す。そうすることで新たな本と出合い、さらに知識を深めていく。そのようにして勉学に打ち込む中でも、いつまでも頭を離れなかった光景がある。
旧制中学時代の恩師、英語教師であった佐藤順太氏。高校卒業後に佐藤氏の自宅を訪れた著者は、そこで初めて“本物の書斎”を目撃する。天井まで積まれた本に囲まれ、ゆったり座り、たばこを吹かす老教師を見て、自分も将来、必ずこんな書斎を持とうと心に誓った。
「この本を書いた理由は3つ。先生方とどんな話をして、どんな本を紹介されたかを書くことで、25歳までにお世話になった先生の名前を残したかった。自分の父や祖父がどういった人であったかを子どもに残したかった。そして、本好きの人に対して、本について語りたいという気持ちがいまだにあるわけです」
数万もの本に囲まれ、知の巨人はにこやかに笑った。
(キッチンミノル=撮影)