モレッティ論は“東京”にこそ該当する

では、モレッティ論は、わが国にはあてはまらないのか。その論証は筆者の力を超えているが、ここにもまた見逃すことができないひとつの事実がある。シリコンバレーの面積は、東京23区の5倍以上、ざっと見積もって東京40キロ圏と同じくらいの広さがある。「イノベーション都市=高所得論」を、港区や足立区といった小さな範囲にあてはめようとすること自体、そもそも無理な話なのだ。

逆にいうと、“年収は住むところで決まる”の「住むところ」とは、東京全体を指していると考えると、無理なく腑に落ちてくる。東京に一極集中が進むのは、働く場所、より高い収入が期待できる場所が豊富に存在しているからに違いない。

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図2 全国の所得水準ベスト10(2010年)

実際、東京はきわだって所得水準が高い。2012年の東京都の平均所得水準は410万円で、2位の神奈川県(370万円)や3位の愛知県(341万円)と比べ頭ひとつ抜き出ている。東京23区の平均所得水準は、東京都の平均をさらに上回る429万円。全国平均(321万円)を3割以上上回る。

図2に2012年度の所得水準データをまとめたが、全国1742市区町村のうち、高所得水準トップ10をみても、東京23区圧勝の感がある。4位に兵庫県の芦屋市、9位に東京都の武蔵野市が顔を出すものの、他は東京23区の揃い踏みだ。ちなみに、23区最下位の足立区は、大阪市(315万円)や札幌市(298万円)よりも所得水準が高い。