あなたも敵を味方に変えられる

少し意外かもしれませんが、亀井静香氏も「人たらし」という意味ではブッシュ氏に負けていません。彼も、必ずその場にいる一番の弱者から声をかけていきます。たとえば番組の打ち合わせの場なら、番組責任者であるプロデューサーやキャスターの私ではなく、立ったまま話すような立場の若いADさん。あの強面で「仕事はキツくない?大丈夫?」などと優しい言葉をかけるので、本人はもちろん、その光景を見ている私たちも心を掴まれてしまいました。ギャップが利いてくるのです。

また、私の番組に出演してくださった時期、亀井氏はある件で番記者から追い回されていました。当然、スタジオの前では記者たちが待ち構えています。もう日付が変わろうかという時間だったので、私は「一喝して蹴散らして帰るのだろうな」と思っていたのですが、彼は記者たちを追い払うこともせず、簡単なコメントで切り抜けることもしませんでした。なんと、それから2時間以上も時間をとって、記者たち全員が聞きたいことを聞き終えるまで取材を受け続けたのです。しかも、エレベーターホールの前で、立ちっぱなしで、です。どの記者も「意地悪な質問で追い詰めてやろう」というくらいの腹づもりでいたのでしょうが、取材後の表情はみなさんとても晴れやかでした。きっと、「自分の問いかけにきちんと答えてくれた」という満足感から、少し“亀井ファン”になってしまったのだと思います。敵まで虜にしてしまうのが、大物政治家のすごいところだと思います。

このように、長く続けられる政治家は揃いも揃って「人たらし」ばかりです。といっても、計算だけでは続けられない、ある意味非効率な行動が多いのもたしか。彼らの行動すべてがパフォーマンスだと断じるのは、少し穿った見方でしょう。政治家にかぎらず、経営者でも研究者でも、トップになる人はみな運を重んじます。ただし、ただ祈るのではなく、常に日の当たる道を堂々と歩けるよう自らの行いを律し続けること。彼らは能動的に、いつでも運を受け入れられるよう態勢を整えているのです。

経済ジャーナリスト 谷本有香
世界のVIP1000人以上にインタビュー。現在、日経CNBC「夜エクスプレス」アンカーを担当。「サンデースクランブル」ゲストコメンテーターとして不定期出演中。著書に『アクティブ リスニング なぜかうまくいく人の「聞く」技術』。
(構成=大高志帆 写真=時事通信フォト)
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