ブッシュ前大統領の意外な人心掌握術

「公人として」の思いが強い政治家として私が思い出すのは、トニー・ブレア元英首相です。彼は国力回復のために大胆な教育改革を行ったことでも知られていますが、独占インタビューをしたときに、その根底にある「ノブレス・オブリージュ(高貴さには義務がともなう)」の精神を強く感じました。それは、「特別な教育を受け、まわりに支えられて今の地位に就いたことを忘れずに、自分というフィルターを通して社会をよい方向に変えていかなければならない」という使命感とも呼べるものです。(ブレア氏は違いますが)世襲議員の方たちはみな特権階級にあり、幼い頃から帝王学を叩きこまれています。そして、父や祖父の代から脈々と受け継がれているのが「ノブレス・オブリージュ」の精神です。そのため、政治家としての資質はさておき、彼らと接していると時にハッとさせられます。意外なタイミングで、圧倒的な正しさや優しさを差し出されることがあるからです。

ジョージ・W・ブッシュ前大統領は、そんな世襲議員の代表格。彼はパーティなどに出席すると、必ずその場にいるもっとも弱い立場の人、賑やかな輪から外れている人に声をかけていきます。たとえば、韓国で行われたある晩餐会でのこと。当時、ツイッターを創業したばかりのビズ・ストーン氏は今ほどの有名人ではなく、華やかなパーティ会場の隅でぽつんとしていました。

アメリカ前大統領 G・W・ブッシュ氏(写真=時事通信フォト)

しかし、スペシャルゲストとして登場したブッシュ氏が「あなたと話してみたかったんだ」といって最初に声をかけたのは、彼です。その後もブッシュ氏は人と人とをつなぎ、ジョークを飛ばしては場を盛り上げて、ムードメーカーとして大いに貢献していました。

私を含め、その場にいた全員が彼のファンになってしまったほどです。ポジション的にそんなことをする必要はなくても、あえて自分が疲れることをする。強い人よりも、弱い人に寄り添う。多くの政治家が目の前にいる人に惜しみなく優しさを与えるのは、「人からしか票(=運)はもらえない」という考えがしみついているからでもあるのでしょう。