「取っているデータの量は世界一」

――次に、マツダが重視なさっている品質管理についておうかがいします。藤原常務は、「生産の現場ではF1エンジン並みの品質管理をしている」と胸を張っておられます。

【宮脇】あれれ、本当ですか? 私たちはそんな表現をしたことはありませんが。マツダはF1、走ったことはありませんしね(笑)。

――常務が胸を張るF1並みの品質管理、の象徴は、例の生産ラインに設置されているエンジンの検査をするドライベンチだと思います。

【小川】はい、このドライベンチを活用して、組み上げたエンジンの全数・全量検査をしています。しかもこの検査はこの本社だけでなく、中国とメキシコにある工場でも実施しています。つまり、全数、全量、全世界とも言えます。したがって、どのエンジンのデータでも、要求されたら即座に出せます。

――ビッグデータ管理を駆使した品質管理ということですか。

【小川】そうです、エンジンそのものの計測値や工程・作業の詳細だけでなく、製造時の気温や気圧といったものまで含めたビッグデータを集積しています。そのうえで傾向値管理をします。つまり、直前に組み上げたエンジンのデータつまり傾向値をドライベンチ上のエンジンに反映させるのです。そこで突然かけ離れた値が計測されると、分解してその原因を追求して、組み上げのばらつきを抑制する、といった品質管理です。

【宮脇】とにかく、徹底的にばらつきを減らして、常にお客さまにとっての最適値を狙う、これが私どもの目標です。各数値が設計・生産の許容範囲におさまっていることだけで、満足はしません。生産での管理の実力を“ここまで追い込める”と開発にフィードバックして、次の設計でさらに上を狙えることにつなげたいのです。そうすれば、開発も楽になるでしょうし、それによって性能向上が図れます。指示された通りにつくる、だけでは終わりません。

――スカイアクティブのガソリンエンジンは高い圧縮率に代表されるように斬新な発想でできあがっています。その意味では初めて世に出たエンジンにもかかわらず、信頼性に関してこれまで芳しくない評判を聞いた記憶がありません。この点でなにか力をお入れになったことがありますか。

【宮脇】圧縮比を上げること自体は生産上、それほど難しくはありません。難しいのは、圧縮比が高くなるほど、ばらつきの管理が難しくなる、ということです。言い換えれば、ばらつきが大きくなればなるほど圧縮比の数値も大きく変動するのです。そこで、管理するべきポイントを探り当て、追い込んでいきました。だから品質が安定しているのだと思います。

【小川】取っているデータの量は世界一だと思います。

――今お考えになっている次の課題は何かをお伺いします。

【藤井】従来は、設計の要求を満たすのがものづくり、でした。今は違います。設計の狙った性能を出すにはどこを狙ってつくればよいかを常に考えています。設計の規格はこうだから、だけでは終わらずに、お客さまに喜んでもらえるものはどうあるべきかという視点を忘れずにつくっていきたい。

【宮脇】私どもに与えられた製造技術、加工技術の課題への取り組みはまだまだ終わりません。将来に向かっては、今までとは全く違う手法を生み出さなければならないと思っています。

【小川】旧モデルからスカイアクティブに進化したその曲線をさらに二次曲線的な軌跡でさらに高みを目指さなければという思いが強いですね。そして製品の差別化を図って抜きんでた製品をつくりたいと思います。もっとも、登る坂道が急すぎて、先が見えなくなるかもしれませんが。

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