中国については、NLDとのパイプが弱い。しかし、今年初めて訪中したアウンサンスーチー女史は、野党の党首としては異例の待遇で習金平国家主席と面会した。これは、NLD政権誕生を展望し、習金平国家主席自らが指示して実現した面会だったと言われている。中国共産党は、軍事政権時代、世界から孤立したミャンマーに接近し関係を深めた。しかし、中国型の開発に対する(資源搾取、環境破壊、現地雇用の不創出)ミャンマー国民の嫌中感情が最高潮に達し、USDP政権が進めていたミャンマー北部のダム開発など、いくつかの開発プロジェクトが中止に追い込まれたこともあった。NLD政権とのパイプを早急に再構築しようと必死の中国。かつて米国がミャンマーの民主化の扉を開けたことで、民政移管後、結果的に中国排除の流れが加速した苦い経験がある。NLD政権下において巻き返しの機会を狙っているが、中国の立ち位置は依然として厳しいポジションが続くものと予想される。

『これ1冊ですべてわかる! ミャンマー進出ガイドブック』(小山好文・宍戸徳雄共著、プレジデント社)

アウンサンスーチー女史自身は、中国はミャンマーの重要な隣国であり発展的な関係構築をしていくと発言したことがあるが、嫌中感情が高まっている国民感情に加え、親米政権であるNLD政権としては、中国との発展的な関係構築がそれほど容易に進むものではないだろう。米国は、周辺6か国に接し、インド洋に面した地政学的にも極めて優位性の高いミャンマーの民主化こそが、インド洋と東南アジアにおける米国の軍事海洋政策とエネルギー政策を決定づける極めて重要な要素となると認識している。中国の巻き返しは容易なものではない。

日本政府も中国と同様、従来、アウンサンスーチー女史個人とのパイプはそれほど強いものはなかった。かつて彼女の軟禁時代に、日本政府が細々と継続していた人道支援名目の資金援助について、軍事政権を利するものとして、日本政府は信用できないと発言したこともあった。また、民政移管後のUSDP政権下における累積債務問題の解消や開発系ODAに対して、引き続き軍を利するものとして、日本政府を批判し続けてきた。

もっとも、彼女自身は知日であり、今後、日本政府がNLDとの関係再構築を図ることは困難なことではない。日本企業としては、欧米の投資スタンスがポジティブになり、経済制裁等も完全に解除されることで、ミャンマーへの投資環境はほぼ整うことになり、更に投資・進出は加速する。もちろん、欧米やインドなどの本格的なミャンマー参入により競争は激化するだろうが、USDP時代からNATO(Not Action Talk Only)などと揶揄されながらも、進出のための事業調査などを水面下で進めてきた日本企業に一日の長があり、それらの進出検討予備群が一斉に投資参入を始めれば、更に日本のプレゼンスは高まる。当面は、各国からの投資が増加し各産業セクターのマーケット自体が大きくなることは歓迎すべきだ。

今回の総選挙の結果は、「ミャンマーの民主化の夜明け」と報道されているが、同時に、アジア最後のフロンティアである「ミャンマー経済の改革開放の夜明け」となることも間違いないだろう。

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