[7]「仕事の報酬は仕事」を意識しているか

最後に、サラリーマン的拡大再生産というお話をしておきたい。

ある会社が100万円の資本金を集め、それを元手にビジネスを始めたところ10%の利益が挙がったとする。つまり元手が110万円に増えたわけだが、ここで利益の10万円を社員間で分配してしまって、最初と同じ100万円の元手でビジネスを継続するのが単純再生産。そうではなくて、10万円の利益を分配せずに元手に組み込んで110万円とし、より大きなビジネスを展開しようとするのが、拡大再生産である。

単純再生産を続けていても、事業の規模は永久に変わらないが、拡大再生産の場合、事業規模が拡大していく可能性が高い。

さて、この原理をサラリーマンという「給与所得者」の生き方に当てはめてみるとどうだろうか。

単純再生産型のサラリーマンは、何らかの業績を挙げたら、その分、給与をアップしてくれと言うだろう。あるいは、ボーナスで手当てしてくれと言うかもしれない。いずれにせよ、すぐに金をくれというのが、単純再生産型サラリーマンの発想だ。

では、拡大再生産型はどうか。彼は、業績を挙げても給与を上げてくれとは言わない。そのかわりに「もっと大きなプロジェクトを任せてほしい」と会社に要求する。会社にすれば、賃上げ要求には応じにくいが、こうした要求には応じやすいから、彼の要求は通る可能性が高いだろう。

拡大再生産型のサラリーマンはこうした要求を繰り返し、より大きな仕事にチャレンジし続けることによって、新しい知識と経験を次々と蓄積していく。サラリーマンとしての価値=地力を高めていくのである。

その結果、どうなるか。単純再生産型サラリーマンは、いつまでたっても100の仕事で10の利益を得ているままだが、拡大再生産型は、100の仕事を110にし、110の仕事を200にし、200を300にしと、次々に仕事のレベルを上げていく。500の仕事を完成させたときになって初めて、「200の利益をくれ」と要求するのである。

サイバーエージェントには、「仕事の報酬は仕事」という社内格言があった。ひと仕事したら即給与アップを求めるのではなく、その報酬としてより多く自分の価値を高めうる仕事を求める。このストイックな貪欲さが、実は給与を上げるための一番の近道なのだ。