キモは「健康志向」「肉ニーズ」両立
このような文脈で現在の外食産業を見てみると、納得できる事象があります。この数年の飲食店における肉に関するトピックは「熟成肉」「ステーキ」「塊肉」などですが、共通しているのは、多くの場合それが「赤身肉」だという点です。日本にはかねてより「霜降り信仰」があって、口の中で溶けるような軟らかな肉こそが高級とされてきました。しかし、海外でおいしいステーキを食べた人たちが口をそろえて「肉のおいしさを本当に味わえるのは赤身肉だ」というような趣旨の発言を繰り返したことで、霜降り信仰は崩れつつあります。
そして、赤身肉が語られる際には、そのおいしさとともに「高タンパク低脂質で、健康に悪くない」ということも共有されることが多いようです。すっかり定着している「炭水化物抜きダイエット」を実践している人たちが「米や麺はダメだけど、肉はいいんだ」という主張をする様子も多く見かけます。
つまり、近年の「肉ブーム(牛肉ブーム)」も、ジンギスカンから続く「肉を食べたいという欲求を、健康イメージが後押しする」という構造が形を変えたものと捉えることが可能なのです。一部で起こっている馬肉への注目も、肉自体のおいしさや生食できるという希少性に加えて、「高タンパク低脂質」という馬肉の特徴とも無縁ではないでしょう。
熟成肉やステーキをはじめとする現在の「肉ブーム(牛肉ブーム)」もそろそろ一段落するはずです。しかし、どれだけ健康志向が強まっても、肉に対するニーズがまったくなくなるということはありえません。ですので、肉に関しても次なるブームは必ず生まれることでしょう。その際には、いかにして新しい健康の切り口を提案できるかが、世の中を巻き込む動きにできるかどうかの決め手になると思うのです。
子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食コンサルタント。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/